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熱情の律動

 ライムが僕の目と鼻の先で、深く静かに微笑んだ。


「二人っきりになっちゃいましたね」


 吐息が頬をくすぐり、めまいでクラクラする。

 いつもとは違ったライムの大人びた表情から目が離せなくなる。

 それとも、少しだけとはいえ僕もアダマンタイマイのスープを口にしたのだから、その効能が作用しているのかもしれない。


「カインさん……」


 ライムが甘い声でささやく。

 これ以上は僕の理性もどうにかなってしまいそうだ。

 それに経験上、火のついてしまったライムをなだめることは難しい。


 こうなってしまった以上、覚悟を決めるしかなかった。

 寝袋を取り出して地面に敷くと、ライムに向けて手をさしのべた。


「おいでライム」


「……!!」


 大人びていたライムの表情が、一瞬にして子供のように輝いた。


「はいっ!!」


 弾んだ声を響かせて勢いよく抱きついてきた。

 全身を押しつけるように力一杯飛び込んできたため、僕はそのまま寝袋の上に押し倒されてしまった。


「なんか今日のライムはいつも以上に元気だね」


「だって、カインさんから誘ってもらえるなんて初めてですから。うれしくてたまらないんです」


「そうだったっけ……?」


「はい、そうだったんです!」


 勢いよくうなずいてから、少しだけ不満そうに頬を膨らませた。


「いつもは、雄と雌は別々に寝るものだとか、カインさんだけ床で寝るとかいって、一緒に寝てくれないじゃないですか」


 それは……そうだったかもしれない。

 頑固になったライムに押し切られて最終的には一緒に寝ていたんだけど。

 ライムが抱きついたまま頬をすり寄せてくる。


「えへへ……。二人だととてもあったかいですね」


 あたたかいというか、ライムの体は熱いくらいに火照っていた。

 いつもはここまでじゃないから、やっぱりスープの影響なんだろう。

 やがてライムが抱きついていた力をゆるめた。

 僕を押し倒すような格好のまま、上半身だけを起きあがらせる。


「カインさん、わたしたちの交尾と人間の交尾は違うものだって前にいってましたよね」


「あ、うん……そうだね……。多分違うと思うけど……」


「わたしはまだ人間の交尾の仕方を知りません。だからカインさんに教えてほしいんです」


 僕の目を真正面からじっと見つめてくる。



「交尾の仕方を教えてくれませんか?」



 いつのまにかライムの服が消えていた。

 火照った体はどんどんと熱を増していき、誰のものかわからない鼓動がうるさいくらいに響いていた。


 嘘を教えてごまかすこともできたけど、僕はそれをしたくなかった。

 ライムに対してはできるだけ誠実にいたい。

 だから正直に答えた。


「実は僕も交尾はしたことがないんだ。それにまだ、なんていうかその、勇気がもてないっていうか……、うまくいえないんだけど、こういうやり方はダメだと思うんだ」


 このまま流れでしてしまうことはできる。

 そしてきっと、それが普通なんだと思う。

 でも僕にはどうしてもできなかった。


 それにライムも、きっと僕も、アダマンタイマイの効能を受けてしまっている。

 この高ぶった気持ちは一時的なものなんだ。

 そんな状態でしてしまうことは、とても不誠実なことだと思うから。


 もしかしたら、僕に意気地がないだけなのかもしれない。

 スープの影響でよけいなことを考えてしまっているだけで、本当は気にしなくていいのかもしれない。


 でも、こんな整理のついてない気持ちでするのは、やっぱり……。


「自分でも情けないって思う。でも、いつかはちゃんと応えるから。だから、もう少しだけ待っててほしいんだ……」


「わかりました」


 意外にもライムはあっさりとうなずいた。

 いつものライムなら、こういうときはもっと頑固で、自分の意見を曲げたりはしなかった。

 なのになぜか今日に限っては、優しさすら感じる表情を浮かべている。


「急がなくても大丈夫です。カインさんの準備ができるまで、わたしはいつまでも待っていますから」


 そういうライムの健気な笑顔に、僕は少しだけ罪悪感を覚えた。

 誠実でいたいということを理由にして、僕は逃げてるだけなんじゃないだろうか……。


 そんな風に悩んでいると、ライムの顔が急ににへらーっと崩れた。


「交尾はガマンします。でも、それはそれとしてですね……」


 とろけた表情を浮かべながら、僕の上をにじり寄ってくる。

 いきなり雰囲気が豹変したけど、どうしたんだろう……。


「今日のわたしは、いっぱいカインさんのお役に立ちましたよね」


「う、うん。そうだね。ここを見つけたのもライムのおかげだし、甲羅も切ってくれたし、襲われたときも助けてもくれたし……」


「3回もお役に立てたんですね。うれしいです」


 いつものように喜びを爆発させるのではなく、静かに蕩けるような笑みを浮かべる。

 普段とは違う雰囲気にドキッとしてしまう。

 そのまま静かな声でささやいた。


「わたしはカインさんとの約束は必ず守ります。だから次は、カインさんがわたしとの約束を守るばんです」


「約束って、なんだっけ……?」


「カインさんのお手伝いをしたら、ごほうびにキスしてくれるっていいました」


「えっ、そうだっけ……」


 そういえば、そんなことをいったような……。

 でもちょっとニュアンスが違ったような気がしないでもない。

 その場を逃れるために必死だったから、細かいところまでは覚えていないんだけど……。


「わたしたちはいま二人っきりです」


 広い洞窟の中に、ライムの息づかいだけがやけに大きく響いている。

 僕の顔を挟むように両手を添えると、そっと唇を近づけてきた。


「3回分のごほうび、もらってもいいですよね……?」

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