アダマンタイマイの隠された効能
「はあ~、いっぱいカインさんのご飯が食べられて幸せです~」
ライムが満足した表情でつぶやいた。
アダマンタイマイの甲羅の姿煮は人数分しかなかったけど、余ったスープを使って他の料理を作ってあげたから、それで満足してくれたみたいだ。
ライオネルとマイヤーも最初は食べにくそうにしていたけど、ライムの食べっぷりを見ている内に抵抗もなくなったみたいだった。
ライムは本当に美味しそうに食べるから、見てるほうもお腹が空いてきちゃうんだよね。
今ではスープの一滴まで残さずに食べてくれていた。
「本当に美味しかったですね。あんな高級料理、もう一生食べられないでしょう」
「ほんとカインには感謝しないといけないわね。ありがとう」
「いえいえ、こちらこそどういたしまして。喜んでくれたみたいでうれしいよ」
「それにしても、食べてからなんだか体がポカポカするというか、体の心からなにかが沸いてくるような気がするのよね」
「アダマンタイマイの甲羅には、食べるだけで能力を上げる効果があるといわれてるからね。それのせいじゃないかな」
「確かに強くなった気がします。ありがとうございますカイン様」
「確かにわたしもなんだか体がポカポカしてきました~。それに、なんだか……」
ライムの表情がとろんとしてくる。
気が付くとライムが僕のほうへにじり寄ってきた。
「カインさん……なんだか体が熱くて、交尾したい気持ちがガマンできないんです……」
「ええっ、なんで!?」
「わからないです……。でも、なんだかいつも以上にカインさんのことを大好きな気持ちが抑えられないんです……」
僕の瞳をまっすぐに見つめながらドンドン近づいてくる。
もうほとんどぶつかりそうな距離だ。
ライムが自分の感情に素直なのはいつものことだけど、今日は様子が違っていた。
まるで僕のところに来たばかりで発情していた頃に似ている。
そういえば、と僕は思いだした。
どこかの国では精力を付けるために亀の鍋を食べると聞いたことがある。
アダマンタイマイも大きな亀のモンスターだ。
その甲羅には普通の亀よりもはるかに高い効能がある。
当然、ものすごく精力も付くんじゃないだろうか。
ライムが目の前まで顔を近づけてくる。
「キスしたいです。してもいいですか……?」
「ええっ!? いや、それは、その……キスは人がいないときにするものだから……」
思わずそんなことをいって逃げてしまう。
助けを求めるようにライオネルたちを見ると、向こうも気まずそうにこっちをちらちら見たり、なんだか顔を赤くしたりしていた。
「ね、ねえ、これって私たちはいないほうが……」
「そ、そうだな。それに俺もなんだか体の調子が……」
「実は私もさっきから身体が熱くて……」
いつしか二人は無言になり、正面から見つめ合っていた。
そういえば二人もあのスープを食べたんだっけ。
僕はライムにあげちゃったから、一口しか食べていない。
だからみんなみたいに身体が熱くなったりすることもなく、効果が薄いのかも。
逆にライムは二人分食べたことになるから、効果も二倍になってるのかもしれなかった。
見つめ合っていたライオネルたちだったけど、やがてライオネルがマイヤーになにかをささやいた。
マイヤーは驚いたみたいだったけど、やがてちいさくうなずく。
二人は手を取り合って立ち上がった。
「カイン様、俺たちは洞窟の入り口を見張ってきます」
「なので、二人はその、ここでゆっくりしててください……」
そういうと、外につながる出口へと向かっていった。
マイヤーの手を引くようにしてライオネルが先頭を歩いていく。
それまではマイヤーのほうが立場的には上な感じがしていたけど、今この瞬間だけは、ライオネルがリードしているように見えた。
いったい二人のあいだになにがあったんだろう……。
もっとも、そのことを気にしている余裕はすぐになくなった。
ライムが僕の額に合わせるようにして自分の顔をくっつけると、うっとりと微笑んだ。
「二人っきりになっちゃいましたね」




