虹のお玉
アダマンタイマイの甲羅も無味無臭だし、他の素材との親和性もいい。
それは味を吸収しやすいということじゃないかと思うんだ。
「うん、できそうだね。やってみようか」
「わーい、カインさんの料理、楽しみです~」
ライムに手伝ってもらいながら、さっそく荷物の中から料理道具を取り出して調理をはじめることにする。
といっても、火水晶を使えば火をおこさなくても温められるし、水水晶を使えばすぐに水も手に入るから、準備自体は簡単なんだけどね。
火水晶の上に水を張った鍋を置き、必要な素材と薄切りの甲羅を水に浸す。
そこに調味料や、外の森で採取しておいた山菜などを入れて味を調えていく。
どれもさっき採ったばかりだから味は保証付きだ。
火が通るにつれていい匂いが漂ってくる。
のぞき込むライムの顔がニコニコととろけていった。
「とっても美味しそうな匂いがします~」
「もう少しで完成だよ」
「えへへ、匂いだけでもう美味しいです。早く完成が楽しみです」
ウキウキした様子のライムの横で僕も鍋の中をかき混ぜる。
様子に気がついたライオネルとマイヤーも集まってきた。
「カイン様の料理は大変美味しいので楽しみですね」
「もうすでに美味しそうだもんねー」
二人も口々にそんなことをいってくれる。
僕も鍋をかき混ぜる手がなんとなくかろやかになってきた。
やっぱり楽しみに待っていてくれる人がいるっていうのはうれしいよね。
そのとき、不意にライムが顔を上げた。
「どうしたの?」
たずねたけど、ライムも不思議そうな顔で辺りを見回していた。
「いえ、なにか変な気配がしたような気がしたんですが……」
ライムの勘は鋭い。
とはいえ、洞窟の中には僕たち以外には誰もいなかった。
入り口はひとつしかないし、そっちはライオネルとマイヤーが注意を向けている。
奥のアダマンタイマイにも変わった様子はなかった。
特に怪しいことが怒りそうな気配はない。
ライムも首をひねりながらも、元の姿勢に戻った。
「やっぱり勘違いだったみたいです」
「それならいいんだけど」
僕も鍋をかき混ぜる作業に戻る。
そのときに気がついたんだけど、鍋の中が妙に明るい気がする。
なんだか薄く発光しているというか……。
アダマンタイマイの甲羅を使った料理なんて初めてだから、そのせいかもしれないけど。
「あれ、でもこれ……」
違和感に気づいた僕は、かき混ぜる手を止めて確認してみた。
鍋の中が光ってると思ったんだけど、よく見たら光っているのはお玉のほうだ。
そういえばこれは、スミスさんに虹の欠片を利用して作ってもらったんだっけ。
それが何かに反応してるのかな?
外に出してみると、光はより強くなった。
どうやら鍋の中身に反応しているんじゃなくて、外に原因があるみたいだ。
ライムも気がついたようで、光るお玉を不思議そうに見ている。
「カインさん、それなんですか?」
「それが僕にもわからないんだ。どうやら外に原因があるっぽいけど……。なんかあっちの壁のほうに反応してるような……?」
壁のほうに近づけるほど光が強くなっている気がする。
試しにそっちにお玉を向けてみると、急に強い光が一瞬だけフラッシュし、何かの砕ける音が響いた。
「えっ……?」
「なっ……!?」
気がつくと、壁際から僕のほうに回り込むようにして、黒い服で全身を包んだ男の人が立っていた。




