亀料理
ライムが、もっといっぱい亀を切り刻みますか、と張り切って聞いてきたけど、もう1、2枚で十分だよと答えた。
今回必要なのはカイゼルさん一人分だけ。
そんなにたくさんは必要ないからね。
それに甲羅はアダマンタイマイを守るためのもの。
これだけ薄く切れば影響はないと思うけど、やっぱりたくさん取るのは気が引けるよね。
「カイン様、千年苔も洞窟の奥に生えていました」
ライオネルが両手で抱えるように苔の固まりを持ってきてくれた。
これで目的だったアダマンタイマイの甲羅と千年苔の両方が手に入ったことになる。
「ありがとう」
「奥にまだまだたくさんあったけど、これだけでいいの? 希少なものなんでしょ。同じ大きさの金よりも価値があるって聞いたけど」
そうたずねてきたのはマイヤーだ。
「確かにとても高価だけど、必要以上に取ると生態系を壊しちゃうかもしれないから、ライオネルが持ってきてくれた分だけで十分だよ。それに千年苔はアダマンタイマイの大切なご飯だ。たくさん採りすぎてお腹が空いたらかわいそうだからね」
そのアダマンタイマイは目を閉じて寝そべった姿のままピクリとも動いていないけど。
最初に視線を向けてきた以外、動くところを一度も見ていない。
僕らが敵ではないと判断したからなのかもしれないけど、本当に大人しいんだね。
受け取った千年苔と、ライムに切ってもらった甲羅を持って、洞窟の中央まで戻ってきた。
持ってきた荷物からさっそく加工用の道具を取り出す。
素材は鮮度が命だ。
加工するのは早ければ早いほどいい。
特に千年苔は特殊な魔力を栄養にしているため、場所を移動させただけで枯れはじめるといわれるくらいだ。
苔を携帯型の乾燥機に入れる。
できあがるのを待つあいだ、僕は薄切りにした甲羅を持ってあることを考えていた。
「カインさん、どうしたんですか?」
いつものようにそばで僕の作業を見学していたライムがたずねてくる。
「うん、もしかしたらこれ、食べられんじゃないかなと思って」
「ご飯ですか!?」
ライムが目を輝かせる。
「アダマンタイマイの甲羅はとても硬いから、粉末状にしてもそのままでは口に入れにくいんだ。だから特殊な素材と一緒に調合することでやわらかくするんだけど……」
僕は薄切りの甲羅を手に持ち上げる。
「普通は削らないと手に入らないから水に溶かすんだけど、こんな形でまるまる手に入ったのなら、違うやり方があるんじゃないかなと思って」
遠い国の高級料理に、鮫のヒレを煮つけたものがあると聞いたことがある。
ヒレ自体にはまったく味がないんだけど、やわらかく煮ることで味を吸収してとても美味しくなるらしいんだ。
素材に味がないからこそ、吸収した味と混ざり合うこともないため美味しくなるらしい。
アダマンタイマイの甲羅も無味無臭だし、他の素材との親和性もいい。
それは味を吸収しやすいということじゃないかと思うんだ。




