SSSS級モンスターライムの実力
僕とドラゴンのあいだにライムが立ちはだかった。
「ライム!?」
止める暇もなかった。
僕を守るように立つライムに向けて、ドラゴンが勢いよく急降下してくる。
対するライムは、無造作に手を持ち上げただけ。
武器なんか持っていないし、なにかの構えを取ることもない。
ただまっすぐに腕を伸ばしただけだった。
そんな無防備といってもいい状態のライムに向けて、ドラゴンの爪が容赦なく振り下ろされる!
「ライム!」
鋭い爪が空間を切り裂き、風圧で金色の髪が舞い踊る。
だけど、それだけだった。
巨大な体重を乗せたドラゴンの一撃が、一本の細い腕によって受け止められていた。
アルフォードさんが驚愕の表情を浮かべる。
「まさか、素手で防いだのか……? あのドラゴンの攻撃を、盾も使わずにどうやって……!?」
呆然とする僕らに向けて、ライムが心配そうに振り返った。
「カインさん、ケガはないですか?」
「え? あ、ああ……、うん……。僕は平気だけど……」
「それはよかったです」
笑顔になるライム。
受け止めた腕には傷ひとつなく、あれだけの攻撃を受けたのに一歩も動いていない。
まるで地面に打ち付けた鉄杭のように、まっすぐそこに立っていた。
逆に襲いかかったドラゴンをほうが押し返されてしまったくらいだ。
「あの、ライムこそ、ケガはないの?」
「はい! 私の体はなんにでも変化できますから。オリハルコンに変えることもできるんですよ!」
オリハルコンというのは、僕も名前だけ聞いたことがある。
どんな攻撃を受けても決して傷つくことはなく、あらゆる攻撃を無効化するという幻の金属だ。
存在しない伝説上の金属と言われることもあったけど……。
そうか、ライムたちが変化することで生まれるものだったのか。
それならドラゴンの攻撃を受けても平然としていられるのもわかる。
ドラゴンが驚いたように空へと飛び上がった。
まさか受け止められるとは思っていなかったのだろう。
「逃がしません!」
ライムが地面を蹴ると、遙か高くに避難していたはずのドラゴンと同じ高さにまで飛び上がった。
「カインさんに傷つける悪いやつはおしおきです!」
小さな拳を握りしめてドラゴンの胴体に打ち付ける。
咆哮よりもはるかに巨大な打撃音を響かせてドラゴンの巨体が吹き飛んだ。
森の木々をなぎ倒し、轟音と土煙を盛大に上げて大地に巨大な穴を開けた。
世界最強とも言われるモンスターを一撃で倒すなんて。
そういえばライムは「この辺りには驚異となりそうなモンスターはいない」といってたけど、あれはライムにとっては楽勝な相手しかいない、という意味だったのか。
オリハルコンは、防具にすればあらゆる攻撃を防ぐ最強の防具となり、武器にすればあらゆる敵を打ち倒す最強の武器になると聞いたことがある。
かつて世界が魔王に支配されていたころ、不死身ともされていた魔王を倒した勇者が装備していたのも、このオリハルコンシリーズの武具だったって伝説があるくらいだ。
さすがにずいぶん昔の話だからどこまで本当かはわからないけど、今のを見ると、もしかしたら本当なのかもって思っちゃうよね。
「カインさん大丈夫ですか。もうすぐ終わるのでちょっとだけ待っててください」
ドラゴンを吹き飛ばしたライムが着地してきた。
そのまま落ちてきた勢いを利用してひざを深く曲げると、再び地面を蹴って落下したドラゴンへ向かう。
「待ってライム!」
僕の声と同時に、超スピードで駆けだしていたライムがピタリと停止した。
「はい、なんですか」
「もしかしてトドメを刺そうとしてた?」
「もちろんです! カインさんを傷つけるとどうなるか周囲に見せつけてやらないといけません!」
ぐっと両の手を握りしめて物騒なことを宣言する。
やっぱりライムはこういうことになると怖いことを平気でしようとするみたいだ。
「じゃあ止めてよかったよ」
「どういう意味ですか?」
生きるか死ぬかの世界で生きてきたライムにとっては、倒れた敵にトドメを刺すのは当然のことなんだろうけど。
「後は僕に任せて」