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「カイン様はシルヴィアお嬢様のことを異性としてどう考えておられるのでしょう。好きですか、嫌いですか」


 コルドさんが有無をいわせない迫力でせまってくる。

 なぜだかライムまでとなりから僕のことをじいっと見つめてきた。

 どうあってもここで答えなければいけない雰囲気だ。

 僕は覚悟を決めて口を開いた。


「ええっと、その……シルヴィアはいつも頑張っていてすごい人だとは思うし、好きか嫌いかでいえば好きだけど……」


「わたしも! わたしもいつもカインさんのために頑張っていますよ!?」


 ライムが大声で張り合ってくる。


「ああ、うん。いつもライムには助けてもらってるよ。ありがとう」


「つまりわたしのことを好きってことですね?」


 ストレートな質問に、一瞬言葉をためらってしまった。


「あ、ああ。うん……もちろんだよ……」


 嫌いなはずがない。

 好きか嫌いかでいえばもちろん好きだ。

 でもやっぱり、どうしてもその一言を口にするのは難しかった。


 ライムにはそれで十分だったみたいだけど。


「えへへへへへ~。わたしもカインさんが大好きです~」


 デレデレの顔でつないだ手に力を込めてくる。


 コルドさんがさらに一歩僕たちに近づいてきた。

 もうほとんど目の前だ。

 怖いくらいに冷静な表情でたずねる。


「カイン様はオルランド家に婿入りする予定はおありでしょうか」


「ええっ!? どうしていきなりそんな……。それに、さすがにそこまでは考えていないというか、僕なんかが入れる訳ないというか……」


 シルヴィアの家はかなり大きかった。

 きっと相当名のある貴族のはずだ。


 シルヴィアの好意でたまたま泊めてもらうことはできたけど、本来なら家に入ることさえ許されないはず。

 婿入りなんてしたら、きっと相当もめるんじゃないだろうか。

 それはシルヴィアに迷惑をかけることにもなる。


 コルドさんが冷静な表情のまま、難しそうに唸った。


「これはやはり危惧していたとおり……俗にいう脈がないというやつなのでは……」


「コルドさん?」


 なにやら小さな声でつぶやいている。

 それからライムへと視線を向けた。


「ライム様はシルヴィアお嬢様のことをどう思っておいででしょうか」


「どうって?」


「お嬢様のことを好ましく思っておいででしょうか」


 聞かれたライムはむすっとした表情になったけど、やがて口を開いた。


「……嫌いじゃないです。シルヴィアは人間の中ではいい方だと思います。でも! すぐカインさんを誘惑しようとするところは嫌いです!」


 嫌っているわけじゃないらしいけど、最後だけは強く否定する。

 コルドさんがひとつうなずいた。


「なるほど。和解は難しいということですね。側室であればあるいは、と思いましたが……」


 側室?

 あまり聞き慣れない言葉だけど、貴族で使われる言葉なのかな……。


「貴重なご意見ありがとうございました。お嬢様の立ち位置を確認できたことは大変有意義であったと考えます。

 とはいえ、シルヴィアお嬢様の幸せが私たちの幸せ。お嬢様が敬愛するに足る素晴らしい人物であることは今さら語るまでもないことと思いますが、もしよろしければ、一人の女性としても目を向けていただけると幸いにございます」


 そういって丁寧に頭を下げた。


「ああ、ええと、うん。シルヴィアが素晴らしい人であることは僕もわかってるよ。ただ、えっと、その……」


「お時間をとらせてしまい申し訳ありませんでした。お二人のために馬車を用意するようシルヴィアお嬢様より仰せつかっております」


 僕がそれ以上なにかを言う前に、一台の豪華な馬車が僕たちの目の前に止まった。

 まるで待っていたようなタイミングだ。

 きっと本当に待っていたんだろう。

 すごく用意周到な人だ。さすがシルヴィアに仕えるだけはあるなあ。


 さっそく乗り込んだライムが目を輝かせる。


「うわあ、すごいキレイな馬車ですね。それに広いですし、座るところもフカフカです!」


「本当だ。すごいね」


 僕も中に入って驚いてしまった。

 座席はソファみたいに座りやすくなっていて、簡単な食事がとれるようなテーブルもつけられている。

 しかもソファの背もたれが動かせるようになっていて、倒すとベッドみたいにして使えるようになっていた。

 ここまでくると馬車というよりは、移動できる個室といった方が近いかもしれない。


「でも、こんなに豪華な馬車だと運賃も高いんじゃ……」


「当家の専用馬車ですのでご心配ありません。使わずに埃をかぶせておくよりはカイン様に使っていただいたほうが馬車のためにもなると、お嬢様も仰っておりました」


 シルヴィアにはなにからなにまで本当にお世話になりっぱなしだな。

 あとでちゃんとお礼を言わないと。


 馬車に乗り込んだ僕たちに向けて、コルドさんが扉の外から頭を下げた。


「では行ってらっしゃいませ。お二人のご無事をお祈りいたします」

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