あれだけはダメですからね!
フィアと契約についての細かい条件を決めたあと、お店を出てきた。
それまでずっと黙っていたライムが急に顔を近づけてくる。
「カインさんはああいうのが好きなんですか?」
「えっ、いや……。好きっていうか……」
ものすごい美人だからつい見とれちゃうだけで……。
「でもずいぶん話が弾んでいました」
不満そうな表情のライム。
自分は話に入れなかったから、すねているのかもしれない。
「ごめんね。あんな製法見たことなかったから、つい気になっちゃって」
本当に斬新なレシピだった。
たぶんだけど、相当古い時代のものを参考にしているんじゃないかな。
今の時代には失われてしまった古代の製法とかを知っているのかもしれないね。
そういうのは勉強したことがなかったし、今度時間のあるときにでも調べてみようかな。
「カインさんのお仕事のじゃまはしたくないので、それはしかたないですが……」
ライムがうつむきがちにつぶやくと、「でも!」と急に顔を上げてきた。
「あれはダメです! ニアちゃんもシルヴィアもあのドラゴンも全員ダメですけど、あれが一番ダメですからね!」
今までにないくらい強い口調だった。
どうやらよっぽど嫌っているみたいだね。
「そこまで嫌うこともないんじゃないかな……。ちょっとつかみ所がない感じはあるけど、悪い人じゃないと思うし」
「でも、ずっと感じていた妙な気配はあれが原因です」
「え? それって、カイゼルさんの家に入る前にライムがいっていたやつのこと?」
「そうです。明らかな敵意があるわけじゃないですし、うまくはいえないんですけど……。でも、これまでに感じたことのない変な気配だったんです」
顔を難しそうにしかめながら答える。
家に入る前から、ライムはなにか嫌な気配がするっていってた。
そのためにコートの姿になって僕と一緒にカイゼルさんと会いに行ったんだけど。
それはつまり、フィアは僕たちがカイゼルさんに会う前から近くで待機していたってことだ。
うーん。
確かにフィアは自分のことをほとんど話さなかったし、やけに人の目も気にしていた。
人の目を気にしないといけないのは僕らも同じだったから、その点は助かってもいたんだけど……。
とはいえ僕たちと敵対するって感じじゃなかった。
一応は協力関係にあるわけだしね。
でも、ライムの野生の勘は良く当たるからなあ。
心配ないとは思うけど、一応気をつけてみた方がいいのかもしれないね。




