妙薬のレシピ
「ライム、平気だからもう離してあげて」
「わかりました」
僕がいうとライムはすぐにフィアの手を離した。
でも僕の横に立ったままその場を動こうとしない。
「フフ、反応がカワイイから少しからかっただけよ。アナタの彼氏を取ったりしないから心配しないで。お仕事の話をさせて欲しいだけ」
「さっきもいってたけど、本当にそんな薬があるの?」
不老不死だなんてとても信じられないけど。
フィアが笑みを深める。
「さすがにココではお話しできませんわ。場所を変えませんか? ヒミツの話をするのにちょうどイイお店に案内いたしますわ」
確かに不老不死の薬の作り方なんて、他人に聞かれたら色々と問題になりそうだね。
◇
「結論からいうと不老不死の薬なんてありませんわ」
フィアの案内でとあるお店に入ると、まず最初にそういった。
僕たちはお店の一番奥にある個室にいる。
奥の席にフィアが座り、テーブルを挟んで僕とライムが並んで座っていた。
周りは壁で囲まれているし、人払いでもしているのかお店の人が来る様子もない。
フィア行きつけのお店なのかも。
確かにここなら周りから話を聞かれる心配はなさそうだね。
「でも、さっきの話だとその方法があるっていってなかったっけ」
「実をいうと少し違うのです。不老不死の薬が作れるのではなくて、不老不死の薬を欲しがっている依頼人を満足させる薬が作れるのですわ」
「それはつまり、あのカイゼルさんの病気を治すことができるってこと?」
「さすが理解が早いですわね。その様子だとアナタも同じことを考えていたのかしら」
「もしできるとしたらそれしかないかなって……」
カイゼルさんの望みは、少しでも長生きしてお店を継ぐ後継者を育てることだった。
だからその病気を治せれば、それが一番いいんじゃないかなって思ったんだ。
「でも、話を聞いたところすごく難しい病気みたいだったし、どうしたらいいのか悩んでいたんだ」
「その病気を治す薬の作り方をワタクシが知っているのです。でもそれにはひとつ問題がありまして」
「問題? もしかしてそれが僕に声をかけてくれた理由なのかな」
「フフ。口で説明するより、このレシピを見てもらった方が早いでしょう」
フィアがテーブルの上にレシピの書かれた紙を広げた。
それは五枚もの紙からなる複雑なレシピだった。
「こ、これはすごいね……!」
僕は思わずうなってしまう。
そこに書かれていたのは、複雑で、そして斬新な製法だった。
僕も結構な数のアイテムを作ってきたし、様々な製法を知っているという自信はある。
どんなものでもレシピを見ればある程度は効果が想像できるんだ。
でもこのレシピは、そんな僕でもどんなアイテムができるのか正確に予想することはできなかった。
僕は夢中になってレシピを解読していった。
となりではライムが顔をしかめて早々に読むのをあきらめている。
一緒に勉強したことがあるとはいえ、まだちょっと難しかったみたいだ。
最後まで読み終えた僕は、レシピをテーブルに戻すとひとつうなずいた。
「確かにこれならカイゼルさんの病気にも効きそうだね」
そして同時に、フィアがいっていた問題というのも何かわかった。
「素材の入手が難しいんだね」
「そうなのです。ワタクシもレシピは知っていても、作ることはできなかった。だからこれを手に入れられる人をずっと探していました。そして今日、アナタに出会えた。どんなものでも必ず手に入れるといわれているSS級素材ハンターのカインにね」
「SS級だなんてだなんてとんでもない。僕はただの冒険者だよ。レベルも1だし」
「フフフ、アナタのことは調べさせてもらったけど、本当にそうみたいね。にもかかわらずそれだけの実績を残しているところが流石なのですけど」
なんだかずいぶん過大評価されているみたいだ。




