共闘依頼
そのあとカイゼルさんとクエストの詳細を打ち合わせたあと、館をあとにした。
とりあえず、ライムのことを探していたわけではなかったのはよかったかな。
とはいえ、けっきょく不老不死の薬を探すことになってしまった。
そんなものある訳ないんだけど……、いったいどうしようかな。
悩みながら歩いていると、道の陰から僕の方に向かって歩いてくる姿が見えた。
「アナタ、もしかしてゴールデンスライムの涙を探しているのではないかしら」
大きな瞳が印象的な、ミステリアスな雰囲気を持つ女性だった。
それにすっごい美人だ。
実際、カイゼルさんの館から出てきた他の商人の人たちも、その女性を見て驚いたように振り返っていた。
「ええと、あなたは……?」
こんなにキレイな人なら忘れるわけがないから、きっと初対面のはずだよね。
『カインさんの浮気者……』
なぜかライムの怒ったような声が聞こえた。
初対面なのにどうして浮気認定されているんだろう……。
女性が妖しげな笑みを口元に浮かべた。
「ワタクシはフィアと申します。アナタはカイン様ですね?」
「僕のことを知ってるの?」
「ええ、もちろん。ワタクシたちのあいだでは有名人ですから」
そういって口元に小さな笑みを浮かべる。
仕草のひとつひとつが誘惑するみたいに艶めかしい。
大きな瞳にまっすぐじっと見つめられて、思わず視線を逸らしてしまった。
『浮気者……』
うう……。でもこれは許して欲しい……。
こんなキレイな人からじっと見つめられたら、誰だって緊張しちゃうと思うんだ……。
「そこの館から出てきたということは、不老不死の依頼を受けたということですわよね」
カイゼルさんのクエストの内容は、他の人には教えてはいけないことになっていたんだけど、知っているんだったら平気だよね。
「そうですけど……。フィアさんも依頼を受けたんですか?」
「フィアでいいですわ。ゴールデンスライムの涙を探して欲しいとの依頼でしたけど、要は不老不死の薬を見つければいいのでしょう」
「そういうことになるけど、でも……」
「不老不死なんてない、そう仰りたいのですね」
フィアもやっぱりわかっていたみたいだ。
だからこそ僕も悩んでいたんだけど、フィアが妖艶な笑みで語りかけてきた。
「では、不老不死の薬の作り方を知っている、といったらどうでしょうか」
「え!? 作り方を知っている!?」
僕は驚いた。
いや、僕じゃなくったって驚くと思う。
「フフ。正確には不老不死ではありません。そのようなものがあるのでしたら、売らずにまずワタクシが使うでしょうから」
「ああ、それはそうだね。でもじゃあ、いったいどういう……」
「それはここではお話しできませんわ。誰に盗み聞きされているかもわかりませんもの」
そういって目を細める。
それだけなのに、なぜだか魅了されてしまったみたいに目が離せなくなった。
この美しい人をもっと見ていたい。
その気持ちが抑えられなくなる。
「場所を変えましょう。いい場所を知っていますの。もっと静かで、二人きりになれる素敵な場所を……」
差し伸ばされた指のひとつひとつが、誘うように動く。
その踊るような動きから目が離せない。
なんだろう……。なんだか頭がぼーっとしてきた……。
フィアのしなやかな指が僕の顔へと伸ばされ、頬にふれる直前に……。
「あなた何ですか」
横から伸びてきたライムの手が、顔に触れる直前だったフィアの手首をつかんで止めた。
コートに変身していたはずなのに、いつのまにか変身を解いて僕の横に立っていたみたいだ。
同時にフィアに対する僕の不思議な感覚も消えた。
ぼーっとしていた意識がはっきりしてくる。
ううん、今のはいったい何だったんだろう……。
意識が戻るにつれて、ライムが元に戻る瞬間を見られたんじゃないかと心配になってきた。
もしそうなら、ライムの正体がバレてしまうかもしれない。
フィアの様子を確認してみたけど、驚いたようにライムの方を見ているだけだった。
もしコートから変身したところを見ていたのなら、僕の方も見るはず。
どうやら正体がバレてたわけじゃないみたいだ。
フィアは突然現れたライムを見て驚きに固まっていたけど、すぐにさっきまでの妖艶な笑みを浮かべた。
「……ワタクシたち以外には誰もいないと思ったのだけど。ずいぶんかわいらしい彼女がいるのね」
ライムは彼女じゃないけど……。
なんていえる雰囲気じゃなかった。
ライムはフィアの手をがっしりとつかんだまま離さない。
その顔は怖いくらいに無表情だった。
理由はわからないけど、ずいぶんとフィアを警戒しているみたいだ。




