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なみだのちから

 僕は色々な種類の薬草やポーションを作るクエストを受けて来た。

 中にははじめてみるような病気とか、今すぐに治療が必要な人もいた。

 だから命の危機になる人を見るのは初めてじゃない。

 目の前のカイゼルさんからは、そういう人特有の気配が漂っていた。



「俺は一人でこの店をここまで大きくしてきた。今でも俺が仕切っている。しかし俺はもう長くない。それじゃ困るんだ」


 カイゼルさんが淡々と言葉を続ける。


「今はまだ俺がいないとこの店は回らない。部下も育ってきてはいるが、それでもまだ時間がかかりそうだ。そこで、だ。俺はある薬を探した」


「病気を治す薬をですか?」


 なんとなくの察しはついていたけど、僕はそうたずねた。


「あんたもわかってるんだろ。不老不死の薬だよ」


 やっぱりそうなんだ。

 世界中の財宝を集めた人が最後に求めるもの。

 それが不老不死だ。


 多くの場合は、自分の財産が失われることへの恐怖だったりする。

 世界中の富を集めても、それを使い切ることなく失ってしまうのは、僕には想像しかできないけど、きっと辛いことなんだろう。


 でもカイゼルさんは少し違っているみたいだった。


「俺の寿命が伸びればその分だけこの店を続けていける。あくまで部下にこの店を任せられるようになるまでだがな」


「そのためにゴールデンスライムの涙を?」


「そいつがあればどんな病気でも治り、致命傷もたちどころに塞がるというそうだ。それでなくてもそのスライムは大量の経験値を持っているんだろ? ま、あくまで噂だがな」


「……つまり、必要なのは不老不死の薬ってことですか」


「まあそういうことだ」


 涙に力がないだろうことはきっとカイゼルさんもわかっているんだと思う。

 要するに、それくらい貴重なものを探しているということ。


 奇跡を起こせるものには、それにふさわしい神秘性を備えているに違いない。

 そう思っている人は多い。

 だから奇跡の代名詞として「ゴールデンスライムの涙」と呼んでいるんだ。


 確かに幻の超レアモンスターと呼ばれるゴールデンスライムの涙なら、なにかの力があってもおかしくなさそうな、妙な説得力があるもんね。

 もちろんライムも特に変わった力はないって言ってたから、迷信なんだろうけど。


 そしてそれは、ライムの正体に気づいているわけじゃないということだ。


 その点で僕はほっとする。

 今回の目的はゴールデンスライムを本当に探しているのかどうかを調べるためだったから、その目的は達成できた。

 ライムのことを探しているわけではないのなら、このクエストは断ってしまってもいいくらいだ。


 もちろん、そんなことできるわけないけどね。


「ゴールデンスライムの涙を見つけることは難しいですけど、それ以外でならお役に立てるかもしれません」


「つまり、不老不死の薬を手に入れられるということか?」


 そう問いかけるカイゼルさんの表情は真剣そのものだった。

 だから僕も正直に答えた。


「この世界に不老不死は存在しません」

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