王都騎士団の壊滅
騎士団の人たちとドラゴンの戦いは、一方的な展開になっていた。
ドラゴンが空から炎のブレスを浴びせかける。
森に隠れた騎士団の人たちが結界を張り炎を防ぐけど、そのまま急降下してきた爪の攻撃を防ぐことはできなかった。
一回の攻撃で、盾を構えた騎士の人たちが数人まとめて吹き飛ばされる。
「負傷した者は下がれ! 手の空いてる者は前へ出ろ!」
アルフォードさんの指示が周囲に響く。
「隊長! 負傷者の数が多すぎます! これ以上は……!」
「くそ……っ! まさかこれほどとは……!」
かみしめた口のあいだから言葉が漏れる。
ほんのわずかの間、空のドラゴンをにらみつけると、やがて苦渋の決断を下した。
「撤退だ……。撤退の準備をしろ!」
アルフォードさんの号令の元、騎士の人たちが、傷ついた仲間を先にして森の奥へと消えていく。
「隊長も早く!」
「お前たちは先に行け。こいつは俺が引きつける」
剣と盾を構え、空のドラゴンに対峙する。
「これでも王国最強と言われたこともある。ドラゴン相手でも多少はやれるさ」
「しかし、それでは隊長が……!」
「俺のことを心配してくれるなら早くいけ。……おそらく、数分も保たないだろう」
「……! 御武運を!」
アルフォードさんを残して騎士の人たちが森の奥へ逃げていく。
それを確かめると、騎士の剣を真正面に構えた。
「さあこい! お前の相手はこの私だ!」
アルフォードさんが吠えると、逃げる騎士たちを追おうとしていたドラゴンの向きが変わった。
強制的に自分に意識を向けるスキルかなにかを持っているのかもしれない。
ドラゴンがアルフォードさんに向けて急降下しながら鋭い鉤爪を振り下ろした。
分厚い盾でそれを受け止めたけど、勢いを殺しきれずにそのまま背後へと吹き飛ばされてしまった。
太い幹へと叩きつけられる。
鎧のおかげでなんとか無事だったみたいだけど、額からたくさんの血が流れていた。
分厚い盾も今の一撃でひび割れてしまっている。
「大丈夫ですか!?」
なんとか追いついた僕はアルフォードさんの元へと駆けつけた。
「君は……! ここは危険だ、早く避難するんだ!」
「僕は大丈夫です。それよりも、これを」
ここにくるまでに調合しておいた薬草を取り出す。
割れた額に当てると、アルフォードさんのケガがみるみるうちに回復していった。
アルフォードさんが驚く。
「こ、これは……薬草、なのか? これほどの回復力がある薬草など聞いたこともないが……」
「僕のオリジナルレシピです。傷によく効くんですよ」
僕自身にはなんの才能もない。
だから薬草を作るにしても、色々な材料と組み合わせたりして、オリジナルのレシピをいくつも開発したんだ。
これもそのひとつ。傷を癒すんじゃなくて、傷口をふさぐのに特化させてある。だから傷口をあっという間にふさいでくれる効果があるんだ。
「オリジナル……? まさか、これほどのものを独学で……!?」
そんなに驚くようなことかな。
ただ傷口をふさぐだけなんだけど。
「傷を癒す薬草があるのはわかる……。しかし、即時にこれだけの効果を発揮するとなると、ほとんど魔法と変わらないではないか……。薬草学を極めた者は治癒魔法を凌駕するともいわれるが……まさか、君は……」
驚いていたアルフォードさんがはっとして空を見上げる。
「いや、それよりも、上だ!」
その声で僕も頭上へと目を向けた。
そこには、再び空へと舞い上がり、攻撃の体勢を取っているドラゴンの姿があった。
あの巨体が空から落ちてくるだけでもすさまじい衝撃になる。
王都騎士団の隊長であるアルフォードさんですら軽々と吹き飛ばされたんだ。
今の僕たちが食らえばひとたまりもない。
そのとき、僕とドラゴンのあいだに誰かの影が飛び込んできた。
「カインさん、下がっててください」
「ライム!?」




