幻の秘薬を求めるわけ
「というわけで俺の館にようこそ。俺がカイゼル商会の会長、カイゼルだ」
案内してくれた男性がそう名乗った。
カイゼルさんが切れ長の目で僕を見据える。
「思ったより驚かないな」
「もしかしたらそうかなって思ってたので」
初対面からただ者じゃない雰囲気もあったし。
それに顔つきも普通の人とは違ってたからね。
カイゼルさんは目元をゆるめて少しだけ笑みを見せた。
「そうか。これで相手の驚く反応を見るのが俺の数少ない楽しみなんだが、あんたほど冷静な奴も珍しいな」
言葉とは逆にカイゼルさんがうれしそうにつぶやく。
イスに座る背筋もビシッとしていて、机を前に座っているだけなのになんだか貫禄があった。
さすがこれだけ大きな商会を一人でまとめているだけはあるよね。
だけど……。
「それであんたに頼みたいことなんだがな」
「あ、はい。ゴールデンスライムの涙を探してるとのことでしたけど」
「……見つけられるか?」
カイゼルさんの目が鋭くなる。
威嚇するというよりは、僕の反応を試すような視線だ。
まるで何かを探るような目。
そもそも僕は嘘が苦手だ。
だから正直に答えた。
「カイゼルさんが探しているのは本当にゴールデンスライムの涙なんですか?」
カイゼルさんの瞳がすうっと細くなる。
どちらかというと面白がっているようにも見えた。
「ほう。どうしてそう思う」
「ゴールデンスライムの涙を欲しいっている人は、あまり聞いたことがありませんから。それに特別な効果があるという話も聞いたことがありません。もちろん僕が知らないだけで、本当は何かすごい効果があるのかもしれないですけど」
『わたしもそういうのは知らないです。試したことはありませんけど……』
ライムもそういってるし。
まあ自分で自分の涙を何かに使うなんてことは、普通はしないだろうから本当に知らないだけなのかもしれないけど。
「なぜゴールデンスライムの涙の依頼を出したんですか?」
単に珍しい物が欲しいから、という人は意外と多い。
絶滅危惧種の牙と聞いただけで、特に使う予定もないのに欲しがる人はいるんだ。
でもカイゼルさんは徹底した合理主義。
たぶんそんな理由じゃない、もっと切実な理由があるはず。
「なるほど、さすがは冒険者協会から推薦されるだけはあるか。
ところでたずねるが、俺の姿を見てどう思う?」
「え? どう、ですか……。普通の商人のように見えますが……」
「まあそうか。確かにまだまだ働き盛りだからな。だが俺の余命は保ってあと半年らしい」
「……」
カイゼルさんは笑っていたけど、僕はとても同じように笑うことができずに押し黙ってしまった。
カイゼルさんがニヤリと口元をつり上げる。
「あまり驚かないな。さては見抜いていたか?」
「……実は、最初にお会いしたときに、もしかしたらと」
「ほう。初見で俺の病を見抜いたのか。やるじゃないか」
カイゼルさんは見た目も若々しいし、活発で生命力に溢れているように感じる。
でも顔色にはわずかに陰りが見えたんだ。




