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ようこそカイゼル商会へ

 ライムのコートを着たまま、依頼人の屋敷で呼び鈴を鳴らした。

 程なくして大きな扉が開いて、中から小ぎれいな服に身を包んだ男性が現れた。

 30代くらいの人で、仕立ての良い服をきっちりと着こなしている。

 使用人というより、商談に出かける商人みたいな格好だ。


「あんたがカインかい?」


 挨拶もなしにいきなり用件を切り出してきた。

 しかも僕はまだ何もいってなかったのに、一目見ただけで見抜いてしまったみたいだ。


「あ、はい、冒険者協会からのクエストを受けて来ました」


「話は聞いてる。入ってくれ」


 扉を開け放って中に招き入れてくれる。


「ありがとうございます。それにしても、なんですぐ僕だってわかったんですか」


「この家は自由に出入りしていいといってある。ノックなんて時間の無駄だからな。だから呼び鈴を使う奴は部外者だ。そして今日の来客予定はあんた一人だけだ」


 まるで僕の質問を予想していたみたいに、てきぱきと早口で答える。

 なるほど。そういう理由だったんだ。


 それにしても話し方が理知的というか、すごく頭の早い人な印象を受ける。

 明らかに使用人とかじゃないよね。

 顔つきも普通とは少し違うし。


 男の人に先導されるようにして、館の中を歩いていった。

 外から見たときは大きくて立派な家だなと思っていたけど、中はシルヴィアの館とは色々正反対だった。


 美しい美術品なんかが飾られていたシルヴィアの屋敷とは違い、ここにはそういった物はほとんどない。

 むしろ商品のサンプルと思われる物が飾られていたり、出荷前の荷包みが無造作に廊下に並べられていたりする。


 様々な人が忙しなく行き来してるし、あちこちから活気のある声も聞こえてくる。

 廊下には扉が開きっぱなしの部屋もあって、中では商談をしている最中だった。


 いかにも実利主義の商人の家って感じだ。

 興味を引かれて思わず辺りを見回していると、急に頭の中に声が響いた。


『あんっ……。カインさん、あんまり激しく動かないでくださいぃ……』

 あ、ああ。ごめん。

 着ているコートがライムなのをすっかり忘れていたよ。


 歩く速度がついつい速くなっていたため、一度立ち止まった。

 先導していた男性がそれに気がついて振り返る。


「どうしたんだ?」


「あ、いえ。ちょっと休憩しようと思ったといいますか、あんまり激しく動くと刺激が強すぎるといいますか……」


「歩くの早かったか? それはすまなかったな。商人はみんなせっかちなんだよ」


 そういってから、きょろきょろと周囲を見渡した。


「どうしたんですか?」


「いや……。なんか色っぽい声が聞こえた気がしたんだけど、気のせいだったみたいだな」


 ぎくっ。

 聞こえないと思っていたけど、勘のいい人にはやっぱりわかっちゃうのかな。


「そ、そうですね、僕もそんな声ぜんぜん聞こえなかったですし……。

 それにしても、たくさんの人がいるんですね」


 なんとか話題を変えようとしてみる。

 幸いにも、男性は特に不審には思わなかったみたいだった。


「騒がしくて悪いな。うちじゃ会長がすべての取引を仕切っててな。なにをするにしても会長の許可がいるから、こうしてこの家に集まって来ちまうんだよ」


「活気のあるいい家ですね」


 活気があるということは、それだけ商売が繁盛しているということだからね。

 それに庶民の僕には、やっぱりこういう雰囲気の方が合っている。

 シルヴィアの家が嫌いなわけじゃないんだけど、高級すぎるとやっぱり緊張しちゃうよね。


「そういってくれるとこっちも気が楽になるから助かるよ」


「それにしても、すべての取引をチェックするなんてすごいですね。これだけの規模になると、取引の数もかなりになると思うんですけど」


「元々うちの商会は会長一人ではじめたんだ。最初はなんでも自分一人で決めていた。だから今もそのやり方で続けてるんだ」


「でも一人だと大変なんじゃないですか」


「大変だけど、まあできちゃうんだから仕方ない。それに何かあるたびに会議なんかしてたら時間がかかってしょうがないからな。その点、トップ一人で決める方が早く済むって利点もある。けどま、それにも色々問題があるんだけどな」


「問題ですか?」


「その話は中でしよう。着いたぜ。ここが会長の部屋だ」


 そういって一枚の扉の前で立ち止まった。

 玄関からまっすぐ歩いた先の、一番奥にあたる部屋だ。

 迷いようがなくてすぐに着ける。

 きっとこれも計算してのことなんだろうな。


 ライムが変な気配がするといって心配していたからそれとなく周囲を見てみたけど、特に変わったところは感じない。

 まあ本気で隠れられたら、素人の僕に見抜けるわけがないんだけど。


『わたしにも怪しい気配は感じられません』


 小さなライムの声が聞こえる。

 ライムもこういってるし、たぶん大丈夫そうだね。


 男性が扉を開ける。

 様々な書類で散らかる机がまず最初に目に入ったけど、中には誰もいなかった。


 男性はそのまま机の裏の中に回ると、空の座席に腰を下ろした。


「というわけで俺の館にようこそ。俺がカイゼル商会の会長、カイゼルだ」


 そしてそう名乗った。

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