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クエストの依頼主

 シルヴィアの館を出た僕たちは、「ゴールデンスライムの涙」を探しているという依頼人の家へと向かった。

 メモに書かれていた住所を見て初めて気が付いたけど、シルヴィアの家から思ったよりも近い。

 いうまでもないけど、シルヴィアの家は貴族の家が多く建ち並ぶ一角に建っている。

 その近くということは、相手の家もそれなりの家柄ということだ。

 まさか貴族の一人ってことはないと思うけど……。


 やがて見えてきたのは、かなり大きくて立派な家だった。

 どうやら貿易商の家みたいだ。

 シルヴィアの館ほどじゃないけど、かなり大きな家だし、きっとすごいお金持ちなんだろう。

 僕は来た道をいったん引き返すと、家からは見えないところで立ち止まった。


「それじゃあライムはここで待ってて」


「えっ、カインさん一人で行くんですか? わたしも一緒に行きたいです!」


 ライムがそういってくれる。


「その気持ちはうれしいけど、今回はライムは一緒にいない方がいいんだ」


 そういうと、ライムの両目がじわりとにじんだ。


「わたしと一緒にいるのがイヤなんですか……?」


「ちがうちがう、そうじゃないよ」


 あわてて否定する。


「今回の依頼人はゴールデンスライムの涙を探しているんだ。本当に涙を探している可能性は低いと思ってるけど、もしかしたらライムの正体に気が付いている可能性もないわけじゃない。ここに来たのもそれを確かめるためなんだしね。

 だから念のためにライムはここで待っててもらいたいんだ」


 もしかしたら涙の募集は囮で、本命はライム本人を見つけることが目的なのかもしれない。


 王都は人が多いだけあって色々な人がいる。

 ニアやシルヴィアみたいな優しい人たちがいる一方で、信じられないくらい悪い人たちだっているんだ。

 万が一のことを考えたら、やっぱりライムにはここで待っててもらうのが一番安全だよね。


 僕の思いはわかってくれたと思うんだけど、それでもライムはまだ浮かない顔をしていた。


「……でも、あの家からはなにかよくない気配のようなものがするんです」


「そうなの?」


 ライムは僕と出会う前までは自然の中で生きてきただけあって、野生の勘が鋭い。

 僕なんかにはわからないことでも、ライムは感じ取っているみたいだった。


「明らかな殺気を感じるわけではないんですけど……。初めて感じる気配なので、はっきりとはよくわからないんです。カインさん一人だと、もしなにかあったらと思うと心配です」


「冒険者協会から直接受けた依頼だから心配はないと思うけど……」


 冒険者協会は依頼内容だけじゃなくて、依頼人についてもちゃんと調べているから、いきなり襲ってくるような悪い人は紹介しないはず。

 でもライムがいうんだから、用心したほうがいいよね。


 とはいえ、うーん……。

 ライムの正体に気づかれないように、ライムと一緒に入る方法かあ……。

 なにかいい方法はないかな、と考えていたら、名案がひらめいた。


「ちょっとこっちに来てもらえるかな」


 人に見られるとまずいので、大通りから少し離れたわき道へとライムを連れてきた。


「一緒に入るのはマズいから、なにか別の物に変身とかできるかな」


 気付かれないように一緒にいればきっと平気なはず。

 変身するところを誰かに見られると大変だけど、ここならその心配もないと思うし。

 ライムもすぐにうなずいてくれた。


「わかりました。それじゃあこれとかどうですか」


 ライムの姿が光に包まれると、形が変わって一着のコートになった。

 なるほど。これなら確かに一緒にいても自然だね。

 広げてみるとサイズもちょうどよさそうだ。


「うん、これなら大丈夫そうだ」


「あ、あの、カインさん……」


 どこからともなくライムの声がする。


「わたしの中をそんなにじっと見られると、さすがに恥ずかしいです……」


 消え入りそうな声が聞こえてくる。


「ライムの中……? もしかして、このコートのこと?」


 確かにサイズを確認するために中まで詳しく見ようとはしてみたけど。


「ううう……。わたしの体の中まで全部見られちゃってますよう……」


 僕にはよくわからないけど、ライムにとっては恥ずかしいみたいだ。


 裸を見られても何も感じないライムが恥ずかしいなんて不思議だなと思ってたけど、そういうことだったんだね。

 それじゃあ目を閉じながら着ることにしようか。


 それにしても、どこに口があるわからないけど、この状態でも話すことはできるみたいだ。


「話すといいますか、テレパシーみたいなものでして……」


 僕の疑問に対して答えが返ってくる。

 思ったことも伝わっているみたいだ。


「そういえば前にそんな話をしたっけ」


 それを使って他のモンスターとも会話ができるっていってたはず。


「それって僕以外の人にも聞こえるのかな」


「はい。近くにいると聞こえます……」


 となるとこの状態でライムの声が相手にも聞こえたらマズいってことだよね。

 まあ静かにしててもらえばいいだけだから、問題ないと思うけど。


 袖を通してみると、思った通りサイズもぴったりだった。

 これなら不自然なところもないし、目立たずに中に入れそうだ。

 それにしても……。


「よく僕の体のサイズがわかったね」


「きっと毎日交尾してるからですね。えへへ……」


 交尾はしてないと思うんだけどなあ……。

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