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抱きしめてくれないか

 シルヴィアは動かないままだったので、まずは肩を押すようにしてベッドに横たわらせる。

 なんだか押し倒すような格好になっちゃったけど、シルヴィアは抵抗することなく、ゆっくりとベッドの上に横たわった。

 見上げる顔が真っ赤に染まり、熱を帯びた瞳が僕を見つめる。

 とろんとしていて、なんだか夢見心地のようだった。


「カイン殿……」


 自分の身体を隠すように抱きしめていた腕が、自ら左右に開かれた。

 一糸まとわぬ美しい肢体が月明かりの下に露わになる。

 その荘厳な光景に普段の僕なら慌てていたかもしれないけれど、精神統一を果たした今の僕にはどうってことない。


 今の僕はマッサージをすることしか考えていないからね。

 その他の不要な感情はすべて排除したんだ。うん。だから恥ずかしいとかそういうのはない。すごい。


 マッサージしようとして思ったけど、ベッドの上に寝ている状態だとちょっとやりにくいなあ。

 僕はシルヴィアの上にまたがるような体勢になる。


 ぎしりとベッドの軋む音が響いた。

 シルヴィアがかすれた声を上げる。


「カイン殿……きょうは、その……最後まで、するのだろうか……?」


 最後って、なんのことだろう?

 考えてみたけどわからなかった。

 そういうときは見栄を張らずに聞くのが一番いいよね。


「シルヴィアはどうしたいの?」


「……ッ! そ、そんなこと、聞かないでくれ……。それよりも、カイン殿はどうなのだ」


「僕は最後までするつもりだったけど」


「……っ!!」


 シルヴィアの身体がビクッと震える。


「わ、わたしは……。カイン殿の気持ちは嬉しい……。貴方の気持ちに応えたいと思う。求められることがこんなに愛おしく感じるなんて、今まで思ってもいなかった……。私のことを、そうしたいと思ってくれるというだけで、こんなにも胸が締め付けられるなんて……。

 だけど、やはり……ダメなのだ。古くさいと思われるかもしれないが、初夜まで清い身体を保っていなければならないのだ……」


「僕は気にしないけど」


「か、カイン殿はそうだろうが! しかし私は、やはり貴族の長女なのだ。この家を継ぐ者としての責任がある。言わなければバレないと思うかもしれないだろう。それに、実際はそうだ。調べなければバレるわけがないし、調べる方法なんてあるわけがない。

 だから、一部の貴族のあいだでは、風紀が乱れているという話もある……。だが、バレなければなにをしてもいいわけではない。やはり、私には、どうしても……。どうか……面倒くさい女だなどと思って嫌わないでくれないか……」


「そんなことでシルヴィアを嫌いになることなんてないよ。それどころか、僕はとても尊敬してるんだ」


 僕はニアのことを思いだしていた。

 一人でずっと頑張っていて、誰よりも強いように見えていたけど、実際は普通の女の子だった。

 ずっと無理をして、本当は誰かに甘えたくて、でもそれを隠していたんだ。


 もしかしたらシルヴィアも同じなのかもしれない。


「シルヴィアは強くて、カッコよくて、本当にすごいと思う。だから僕の前でくらいは、ゆっくり休んで欲しいんだ」


「カイン殿……。私は、果報者だな……。こんなにも想ってもらえるなんて……」


 目を閉じ、そして開くとまっすぐに僕を見た。


「それなら、抱きしめてくれないか」


「えっ?」


 意外な提案に驚いてしまう。

 だけどシルヴィアのお願いなんだ。

 僕はゆっくりとシルヴィアの背中に手を回した。


 二人抱き合ってベッドの上に寝ているような形になる。


「こんなところを見られたら誤解されそうだね」


「ふふ、そうだな。しかし今はカイン殿しかいない。誤解される心配なんてない。それに、こんなにも安心するだなんて思わなかった……。もっとたくさんのことを想像していたのだが、たったこれだけのことで、こんなにも安心できるのだな……」


「大丈夫だよ。僕に任せて」


「カイン殿……。私はもう十分貴方のことが好きだと思っていたが、まだまだ好きになれるなんて……。これでは、もっともっとカイン殿のことを好きになってしまうではないか……」


 シルヴィアは全身から力が抜けていた。

 いい具合にリラックスできているみたいだ。

 目を閉じればそのまま眠ってしまいそうなほど安らかな表情をしている。

 思えばシルヴィアのこんな表情ははじめて見たかもしれない。

 貴族の娘として、騎士団を率いる者として、いつも気を張っているからやっぱり疲れているんだろう。


 僕らは抱き合ったまま、いつまでもそうしていた。

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