私相手でも緊張してくれるのか
寝室の扉を開けると、先ほどよりも二周りくらい狭い部屋だった。
大きな窓から差し込む月明かりが、部屋の中に置かれた書き物用の机や、鎧一式などを青白く照らし出している。
その一番奥に豪華なベッドがしつらえられていた。
シルヴィアがベッドの端に腰掛ける。
僕もとなりに座った。
シルヴィアはうつむいたまま無言でいる。
そのうちにだんだんと僕も冷静になってきた。
二人並んでシルヴィアのベッドに腰掛けている。
しかもシルヴィアは全裸のままだ。
さっきまでシルヴィアの美しさに見惚れてしまっていたけど、よく考えたら今のこれはとんでもない状況なんじゃ……?
……いやいやいや、そんなことを考えたらいけない。
浮かびそうになった邪な思いを僕は強引に振り払った。
シルヴィアは騎士として真面目に訓練に励んでいるんだ。
僕には応援することしかできないからこそ、出来る限りのことを手伝ってあげたい。
邪な考えを持つなんてもってのほかだ。
今日はマッサージをするだけ。
疲れた身体をいやしてあげるのが目的だ。
他にするべきことはなにもない。
二度、三度と深呼吸をする。
「カイン殿……? 緊張しているのか……?」
「その、土壇場で急に緊張してきちゃって……。ごめんねこんなに情けなくて……」
「ふふ……。そうか。カイン殿にはライム殿もいるし、こういうことには慣れていると思っていたのだが……私相手でも、緊張してくれるのだな」
「そ、そんなの当たり前だよ……。それに、慣れてるってほどでもないと思うけど、シルヴィアにするのはまた別だし……」
ライムにマッサージなんてしたことないから慣れてるなんて事はないし。
それに、仮に慣れていたとしても、見れば見るほどシルヴィアは綺麗で、そんな体に触れるのかと思うだけで全身が熱くなる。
となりあう僕の手に、シルヴィアの細い手がそっと重ねられた。
それは女の子のように細くて柔らかい。
シルヴィアはうつむいたまま視線を合わせようとしなかった。
ただ、顔を背けたまま、重なる手のひらにぎゅっと力を込めてきた。
「わ、私も同じように緊張しているのだ……。その、カイン殿と、これからすると思うだけでな……」
シルヴィアにこんなに励まされるなんて、やっぱり僕は情けない。
だからこそ、これ以上心配はかけられないよね。
何度か深呼吸を繰り返して心を落ち着かせた。
「えっと、それじゃあ、しようか……?」
シルヴィアの体が少しだけ震えたが、やがて小さくうなずいた。
「……はい、お願いします」
その顔は、暗闇の中でもわかるほど真っ赤に染まっていた。




