あなたの一番に
「もしかしてまたマッサージしてほしいの?」
果ての草原で一緒に旅をしているとき、シルヴィアにマッサージをしてあげたことがある。
ただ、どうも騎士団の人は他人にマッサージをしてもらうことが恥ずかしいみたいなんだよね。
まあ僕だって女性にマッサージされたら恥ずかしいと思うかもしれないけど……。
どうやら僕の考えは当たりだったみたいで、シルヴィアは暗い廊下の中でもわかるくらいに顔を赤くしてうなずいた。
「じ、実はそうなのだ……。カイン殿に会ってからずっと、そのことばかりを考えるようになってしまって……」
「もちろん僕はかまわないよ」
「そ、そうか……。それでは、その、私の部屋に来てくれないだろうか……」
シルヴィアに手を引かれるようにして廊下を進む。
暗くて歩きにくかったけど、さすがに自分の家だけあってシルヴィアの足取りに迷いはなかった。
そのわりには歩く速度はずいぶんゆっくりな気もしたけど……。
暗いからやっぱり気をつけているのかもね。
階段を上がり、この家の最上階にあるというシルヴィアの部屋に向かう。
暗い館の中を二人分の足音が続いていた。
「シルヴィアはいつも一人でしてるの?」
マッサージは自分でもできるからね。
そうたずねると、シルヴィアがビクリと震えるのがつないだ手のひらごしに伝わってきた。
「う、ううう……。実は、そうなのだ。多い時には1日に3回も……。自分でも良くないとわかっているのだが、カイン殿のことを思うと、つい身体がうずいてしまって……」
どうして僕のことを思い出すとマッサージをしたくなるんだろう。
不思議だったけど、そういえば前に、僕はシルヴィアにとって理想の騎士だといわれたことを思い出した。
僕にはまったく自覚はないし、そもそも騎士なんて柄でもないんだけど、とにかくシルヴィアにとってはそうらしいんだ。
だからきっと僕を目標にして訓練に力が入ってしまって、それで疲れがたまりやすくなるのかな。
「そんなに僕のことを高く評価してもらえているなんて、なんだか嬉しいけど少し恥ずかしいね」
「うう……。やはり私ははしたない女なのだろうか……」
「ええっ。そんなことないと思うけど……。確かにどうして僕なんかをとは思うけど、そういう風に誰かを思うことは普通なんじゃないかな」
誰にだって目標となる人はいる。
あこがれの大先輩のようになりたいと思ったり、騎士団隊長を尊敬して騎士になる人だっているはずだ。
伝わったのか、シルヴィアもふふっと笑みをもらした。
「ありがとうカイン殿。そういってももらえると、私も気が楽になる。
ところで、その……カイン殿には、そのように思っている人はいるのか?」
「え、僕?」
いわれて僕も考えてしまった。
僕に師匠と呼べる人はいない。
アイテム作りや素材の採取とかも全部独学だ。
誰かを目標としてきたことはなかった。
僕が悩んでいると、シルヴィアがぽつりと漏らした。
「カイン殿の一番は、やはりライム殿なのだろうか……」
シルヴィアの言葉に僕もはっとなる。
ライムの常に前向きで明るいところは僕もうらやましいし、見習いたいと思うことは多い。
そういう意味では確かにライムは僕の目標といえるかもしれなかった。
「うん、そうだね。ライムは確かにそうかも」
「やはりそうなのか……」
「でも僕にとってはシルヴィアも同じように思っているよ」
「……そうなのか?」
「シルヴィアはいつも冷静ですごく頼りになるし。真面目なところも、いつでも真剣に理想の騎士を目指す姿も、すごく凛々しくてカッコいいと思う」
何事にも全力で取り組むことは難しい。
妥協せずに目的に向かうシルヴィアは僕の目から見ても本当にカッコよくて、憧れでもあるんだ。
「そ、そうか……。私もそうなのか……。ふふ。お世辞とわかっていてもうれしいものだな」
頬を染めうれしそうにするシルヴィアの横顔に、思わずドキッとしてしまった。




