またマッサージをしてほしいの?
シルヴィアはいつもの姿とは違っていた。
薄手の寝間着を身につけており、身体のラインがうっすらと透けて見える。
長い銀髪は背中に流すようにしておろされていて、いつもと雰囲気が全然ちがって見えた。
それに、どことなく上気した頬のせいもあっていつも以上に大人びて見える。
僕は思わず視線を逸らしてしまった。
「ええと、どうして僕の部屋に……?」
見とれていた視線をごまかすようにたずねると、今度はシルヴィアがびくっと肩を震わせた。
「そ、それは、そのだな、ええと……。そ、そう! カイン殿は私の大切な客人なのだから失礼があってはならないからな! なにか不都合がないか様子を見に来たのだ、うむ」
そんなこと使用人の人とかに任せればいいのに、さすがシルヴィアは真面目だなあ。
「大丈夫だよ。シルヴィアの家は快適で特に問題もないし」
「そ、そうか……」
シルヴィアがほっとしたような、そうでもないような、なんともいえない表情を浮かべた。
なんとなく気まずい沈黙が流れる。
こんな真夜中だし、もう寝た方がいいよね?
「ええと、それじゃあおやすみシルヴィア」
「……ま、待ってくれ!」
部屋に戻ろうとした僕の腕を、シルヴィアがつかんで引き留める。
つかんだ手のひらがなぜだか燃えるように熱かった。
「……ど、どうしたの?」
「いや、その……実はな。最近はいち早く立派な騎士となるために、いつも以上に厳しい訓練に臨んでいるのだ」
「そ、そうなんだ。僕からしたらシルヴィアはもう十分に立派な騎士だと思うけど」
突然どうしてそんなことを言い出したのかはわからなかったけど、シルヴィアが頑張っていることはよくわかるから僕はそういった。
でもシルヴィアは小さく首を振った。
「なにをいう。私など諸先輩方に比べればまだまだ至らぬところは多い。それに、正式な騎士となったらカイン殿の想いに応えると約束したからな。だから一日でも早く立派な騎士を目指しているのだ」
そういえばそんな約束をしていたっけ。
確か虹の欠片を渡したときにそんなことをいわれたんだよね。
このお礼は必ずするとかなんとか。
気にしなくていいよといったんだけど、真面目なシルヴィアのことだからそういうわけにもいかなかったみたいだ。
「僕としてはいつでもいいから、シルヴィアこそ無理しないでね。僕のせいでケガとかされたらそっちのほうが嫌だし」
「カイン殿……」
ぼーっと僕の顔を見つめていたけど、すぐに我に返ったように首を振った。
「……はっ。いやいや! これ以上私に優しくしないでくれ! 目標ができたことによってせっかく修行にも身が入っているのだ! こ、これ以上の雑念はその、私もどうにかなってしまうというか……」
なにやらモゴモゴと口にしながらうつむいている。
「ただ、その、だな……。毎日厳しい修行をしているせいで最近は疲れがたまっているのを感じていてな……。それで、カイン殿にお願いがあるのだが……」
なにやら言いにくそうにしていた。
基本的にシルヴィアは言うべきことはハッキリと口にする性格だ。
そんなシルヴィアが言いにくそうにするようなことといえば……。
僕にはひとつだけ心当たりがあった。
「もしかしてまたマッサージしてほしいの?」
「……ッ!」
どうやら僕の考えは当たりだったみたいで、シルヴィアは暗い廊下の中でもわかるくらいに顔を赤くしてうなずいた。




