真夜中の訪問者
夜中にふと目が覚めた。
どうやら食べ過ぎちゃったみたいだ。
緊張で喉も通らないと思ってたけど、なんだかんだでやっぱりご馳走になった夕食が美味しすぎたからかな。
トイレに行こうと思ったんだけど、ライムが抱きついたまま寝息をたてていた。
起こさないようにそっと腕をはずす。
ライムの口元がムニャムニャと動いた。
「カインさん……? どうしたんですか……?」
起こしちゃったかなと思ったけど、目は閉じたままだった。
どうやら寝言だったみたいだ。
起こすのも悪いので、使われていなかった枕をライムに抱かせる。
するとすぐにその枕を抱きしめ、口元にもゆるやかな笑みを浮かべはじめた。
「もう、カインさんったら、そんなところダメですよぉ……。え? もうガマンできないから今すぐ交尾したい? えへへ、もちろんいいですよ。カインさんが言ってくれれば、わたしはいつでも細胞分裂できますから……」
そういいながらうれしそうな顔で寝返りを打った。
いったいどんな夢を見てるんだろう……。
起こさないように静かにそっとベッドを抜け出した。
トイレに行こうと思って廊下に出たけど、すぐ問題に気がついた。
家がすごく大きいから、どこにトイレがあるかわからないんだ。
さすがにこんな時間だと使用人の人も起きてないから、誰かに聞くこともできないし。
とりあえず適当に歩いて探してみようかな……。
「……ふう、だいぶ時間がかかっちゃったな」
迷いながらもどうにかトイレは見つけたものの、なにしろ道がわからないから今度は戻ってくるのが大変だったんだ。
それに真夜中だから、他の人を起こさないように気をつけて歩かないといけないし。
そんなわけで足音を立てないようにゆっくりと歩いていたから、見つけるのにも、そのあとに戻ってくるのにも時間がかかっちゃたんだ。
でもこうしてどうにかこうにか戻ってこれた。
そう思って扉を見ると、一人の女性がいるのに気が付いた。
扉に手をかけようとしてやめたり、耳を当てて中の音を聞こうとするけどすぐに首を振って離れたりしている。
なんだかずいぶん挙動不審だけど、いったいなにをしてるんだろう……。
館の中は夜ということで照明も最低限のため薄暗く、遠目なのではっきりとその姿はわからない。
それでもかなりの美人だとわかる。
それくらい目立つ容姿の人だった。
そんな人が僕の部屋にいったいなんの用事なんだろう。
もしかしたら、いきなりやってきた僕たちのことを怪しんでいるのかもしれない。
シルヴィアのお客さんとはいえ、使用人の立場から見たら僕みたいな一般庶民が来るなんて不釣り合いだし、怪しまれても仕方がないかもしれない。
だったら早めに誤解を解いておかないとね。
「あの……」
「うひゃあっ!?」
なるべく控えめに声をかけたつもりだったんだけど、その女性は飛び上がるように驚いた。
「こおこここお、これは違うのだ……! 決してやましい理由があったわけではなくただの知的好奇心としてカイン殿の様子を知りたかっただけで、決してあわよくば私もなどという邪な理由では決して……!」
慌てたようにまくし立てる。
ずいぶん慌ててるみたいで言葉もよくわからないことになっていた。
だけど、僕は別のことに驚いた。
「もしかして、シルヴィア……?」
「か、カイン殿!?」
声をかけてきたのが僕と知って、シルヴィアは更に驚いた。




