シルヴィアの屋敷
色々あったけど結局僕たちはシルヴィアの家に向かっていた。
いつまでのニアの家にお世話になっているわけにはいかないからね。
ちなみにそのニアだけど、やっぱりこなかった。
なぜかシルヴィアのお世話になるのを嫌がっていたのもあるんだけど……
「すみません、ちょっと調べたいことができたので、私は遠慮しておきます」
ということなので、しばらく別行動をしたいみたいだった。
なにを調べるつもりなのか気にはなったけど、師匠にご心配をおかけするわけにはいかないので、といって詳しくは教えてくれなかった。
とりあえず危ないことじゃないみたいだけど……。
そういうわけで僕らは三人でシルヴィアの家に来ていた。
なんだけど……。
「わー、すっごく大きな家ですね」
ライムが目の前の家を見上げながら感動の声を上げる。
それもそのはず。
ニアの家もけっこう大きかったけど、シルヴィアの家はもうそういうレベルじゃない。
完全に「屋敷」……あるいはもう「お城」といったほうが正しいかも。
扉を開けてすぐの空間も豪華で広く、たぶんここだけでも僕の家よりも広いと思う。
そして使用人たちがずらりと並んでいて、シルヴィアが入ると同時に一斉に頭を下げた。
「「お帰りなさいませお嬢様」」
「ああ、ごくろう。皆も楽にしてくれ」
けっこう大きな貴族の家だとは聞いていたけど、これは本当にすごい。
慣れた様子で答えるシルヴィアだったけど、僕はもう緊張でガチガチだった。
住む世界が違いすぎるよ。
夕食も用意してくれるというのでご馳走になったんだけど、これまた豪華なものが出てきて恐縮してしまった。
部屋もすごく大きいし、壁際には使用人が並んでいて、なにかあったらいつでも対応できるようになっていた。
といっても、なにかを頼むような余裕はなかったんだけどね。
「こんなに大きな家だなんて思ってなかったから、なんだか緊張しちゃうね」
「そんなに緊張しなくてもいいぞ。ここはカイン殿の家と思ってくれてもかまわない。私たちは実質的にはもう家族のようなものなのだしな……」
シルヴィアはそういってくれたけど、さすがにすぐにそう思うことは難しいよね。
ライムだけは気にすることなく、これものすごく美味しいです! と感激してたくさんお代わりしたため、さすがのシルヴィアもちょっと顔色が悪くなっていた。
まさかシルヴィアの家の台所まで空にはしないよね?
客人用の部屋といって通されたのは、ダブルベッドのある大きな部屋だった。
ライムがさっそく飛び乗ってうれしそうに何度も転がっている。
あんなに大きなベッドはそうそう見られないからね。
「今日はありがとうシルヴィア」
「気にすることはない。ここはカイン殿の家と思ってくつろいでくれてかまわないからな」
そういって部屋を出る直前に、ちらりと僕を振り返った。
「そ、それから……。私の部屋はこの家の一番上にある。階段を上がってすぐ目の前にあるから、来てもらえればきっとわかると思う……」
「? そうなんだ」
シルヴィアは長女だといってたし、やっぱり一番いい場所にあるんだね。
だけどシルヴィアはなぜかちらちらと僕の表情を伺ってくる。
いったいどうしたんだろう。
まるで僕の反応を待ってるみたいだけど……。
「……ええと、じゃあなにかあったらシルヴィアの部屋に行くから」
シルヴィアの家でなにかったらシルヴィアに相談するのが一番だろうからね。
シルヴィアの顔もぱあっと輝いた。
「……! ああ、うむ。その……ま、待っているからな……っ!」
そう言い残すと、足早に廊下を駆けていった。
ずいぶん急いでるみたいだったけど、いったいどうしたのかな。
不思議に思いながら室内に戻る。
ベッドの上で寝転がるように遊んでいたライムが勢いよく起きあがった。
「カインさん、カインさん! さあ早く一緒に寝ましょう!」
ベッドの上から満面の笑みで誘ってくる。
なんだかいつも以上に笑顔が輝いていて、とても拒否できる雰囲気ではなかった。
ライムが寝ようというときは、本当に言葉通りの意味だ。
そうわかっていても、やっぱりまだ緊張してしまう。
ずっと一緒にいるから慣れているとはいえ、ライムはやっぱりとてもかわいい美少女だ。
そんな子から一緒に寝ましょうといわれたら、誰だって緊張するに決まってるよね。
ゆっくり僕がベッドに近づくと、ライムが急に抱きついてきた。
そのまま一緒になってベッドの上に倒れ込む。
「うわっ、どうしたのライム」
「カインさんと寝るのが久し振りだったのでガマンできなかったんです♪」
「久しぶりって……そんなに経ってないような……」
そういうと、ライムの顔が目と鼻の先まで近づいてきてむうっと頬を膨らませた。
「昨日は一人で寝て寂しかったんです!」
「それは……ごめんね」
「だから今日は昨日の分まで一緒に寝るんです」
そういって力一杯抱きついてきた。
首に腕を回し、頬をすり寄せてくる。
枕もちゃんと二人分用意されてるんだけど、使うつもりはないみたいだった。
「こっちのほうが気持ちいいです~」
「しょうがないなあ……」
そんなライムを軽く抱きしめ、頭をゆっくりとなでる。
ライムが幸せそうに目を細める。
「やっぱりカインさんと一緒がいいです……」
そうつぶやきながら、徐々に瞳が閉じていく。
「もう、ひとりは、いやですから……」
やがて静かな寝息を立てはじめた。
なんだかよくなついた猫みたいだな。
そんなことを思いながらライムの寝顔を見つめていたら、いつのまにか僕の目も閉じていたんだ。




