昨夜はお楽しみだったんです
ニアとシルヴィアの話を聞いていたライムが僕に問いかける。
「つまり今日はシルヴィアの家で寝るってことですか」
「その予定だけど」
そう答えると、なにやら難しい顔つきになった。
「むむ……。ニアちゃんの家の次は、シルヴィアの家……。わたしは野宿でも構わないのですが……」
「さすがにそういうわけにはいかないよ」
ライムは元はモンスターなだけあってか、外で寝泊まりすることにも抵抗はないみたいなんだよね。
だからなのか、他人の家に泊まることを嫌がるライムだったけど、やがて納得したみたいだった。
「……そうですね。人間は普通は野宿をしないんでしたね……。わかりました。今日はシルヴィアの家ですね。
でも! 交尾を許したのはニアちゃんだけですからね! これはゆずれません!」
その言葉を聞いて戸惑いを見せたのはシルヴィアだった。
「……交尾を許した? そこのちびっ子とか? それはいったいどういう意味なんだ?」
「ニアちゃんがどうしてもカインさんとの子供がほしいというので、昨日の夜だけ交尾を許してあげたんです。カインさんの優秀な遺伝子を後世に残せないことは世界の損失ですから。ですがそれも昨日まで! 今夜はわたしと交尾するんですよ!」
「いや、ニアとはその、交尾はしてないし、ライムともするつもりはないんだけど……」
「どうしてですか!? ニアちゃんとは子作りするのに、どうしてわたしとは子作りしてくれないんですか!?」
涙を浮かべながらとんでもないことを大声で話すライム。
店内には他のお客さんもいるんだけどなあ……。
なにか妙に注目を集めてしまっている気がする……。
だけど、一番驚いてるのはシルヴィアだった。
「こ、子作りだと……!? そ、それはいったいどういうことなんだ……?」
うろたえるシルヴィアを見て、ニアが口元をニヤリと笑みの形につり上がった。
「昨晩は師匠と二人きりの夜を過ごしたんです。私の部屋の、私のベッドに、二人きりで。やることなんて決まってるじゃないですか」
「な、なにを言っているんだ。カイン殿はきちんと礼節をわきまえたお方だ。いくら何でも貴様のような子供を相手にするわけないだろう。
そこまでいうのなら、なにをしたのか具体的に教えてもらおうじゃないか」
うろたえるシルヴィアの糾弾に、ニアが恥ずかしがるような素振りを見せた。
「具体的になんていわれても、昨夜は師匠にたくさん恥ずかしいところを見られてしまいましたし、言えるはずがありません……。そうですよね、師匠?」
恥ずかしいところっていうのは、あの大泣きしたときのことをいってるのかな。
「ええと、まあ、そうだね……」
確かに人に話すようなことじゃないよね。
いってることは間違っていないので僕としてはうなずくしかない。
シルヴィアの顔が徐々に赤くなっていった。
「言えないようなことというのは、その、まさか……」
「それに、師匠にはいっぱい慰めてもらいました……。ふふ、知ってますか? 師匠の手はとても温かくて、そして、とても気持ちいいんです……」
そういえば頭をなでたとき、気持ちよさそうにしていたっけ。
「な、慰めるというのは、まさか……」
「おかげで、私はすっかり濡れてしまいまして……」
ニアが目元を拭うような仕草をする。
もしかして、涙で濡れたときのことを表現してるのかな。
「そこから先のことは……、お話しするまでもないですよね?
ですが、これだけは言えます。師匠に抱いてもらった夜のことは、一生忘れられない私の宝物です」
うっとりとした表情でつぶやく。
シルヴィアは全身を震わせ、声にならない声を上げていた。
「か、か、カイン殿、今の話は本当なのか……?」
「ああ、うん。そうだね……一応、そういうことになるのかな……」
気がついたら僕らは抱き合って眠っていたからね。
ニアの説明に間違いはない。
少し言い方に足りない部分はあったような気もするけど……。
でもやっぱり恥ずかしいから、ついつい視線が泳いでしまう。
「カイン殿のその反応……まさか、本当に……」
愕然としていたシルヴィアを見て、ニアがうれしそうにほくそ笑んでいた。




