若き騎士との再会
ライムとの集合場所である食堂はそう遠くないのですぐに着く。
ニアが店の看板を見て不思議そうにつぶやいた。
「あれ、大食いチャレンジがなくなってますね。あれがこの店の名物だったのに。やめちゃったんでしょうか」
「あはは。あれは昨日ライムがチャレンジして、店の倉庫が空になるまで食べ続けちゃったからね。さすがにもうできないんじゃないかな」
一食分ならともかく、店を営業できるだけのたくさんの食料を手配するのは意外と大変だからね。
むしろこうして普通に営業を再開できているだけでもすごいことだ。
きっと店主の人が優秀なんだろう。
とりあえず中に入ってライムが戻ってくるのを待つことにした。
注文を取りに来た人が僕の顔を見て表情をひきつらせた気がするけど、気のせいだよね。
倉庫の中身を食べ尽くしたのは僕じゃなくてライムだし。
それからしばらくはニアと他愛のない話をして時間を潰していた。
そこに懐かしい声が響いた。
「カイン殿? カイン殿ではないか!」
雑踏の中でもよく通る張りのある声は、戦場の中でも騎士団に指示を出せるよう訓練されたものだ。
声をしたほうに目を向ければ、美しい白銀の髪をもつ女騎士が目に入る。
鎧は付けていないけど、まっすぐに伸びた背筋と引き締まった手足が、見る者を圧倒するオーラを放っていた。
そしてなによりも、意志の強い凛とした瞳が印象的だった。
「シルヴィア! 久しぶりだね」
「ああ、久しぶりだな!」
弾んだ声で答えると、まっすぐに僕のテーブルへ向かってきた。
シルヴィアは王都騎士団に所属する騎士だ。
そして「自由の風」団の団長でもあるという。
僕とそう変わらない年なのに、騎士団長を任されるのはとてもすごいことだ。
それだけ実力があるってことなんだよね。
それは歩く姿からだけでもわかる。
足音は常に一定間隔で響いているし、少し早足で歩いているのに背中の髪がほとんど揺れないのは、それだけ軸が安定しているからだ。
己を律するような硬い表情を崩すと、ふわりと少女のような笑みを浮かべた。
「いつ王都にきたのだ? 連絡くらいくれてもいいだろう」
「ああ、ごめんね。実は昨日着いたばかりでね。もうすこし落ち着いてから行こうと思ってたんだ。騎士団の人は忙しいだろうし」
「そんなの気にすることないだろう。私とカイン殿の仲ではないか。アルフォード様も会いたがっていたぞ。も、もちろん私もなっ」
「そうなんだ。それにしてもこんなところで会うなんて偶然だね。どうしてここに?」
「実は昨日の夜この食堂で騒ぎがあったようでな。市民の生活を守るのが我ら騎士団の仕事。だから状況を確認しに来たのだ。問題があるようなら改善させねばならないからな」
「ああ、それならきっと、ライムが大食いチャレンジで人が集まり過ぎちゃったせいかもね」
僕は昨日の状況を説明した。
聞き終えたシルヴィアがうなずく。
「そういうことか。それならば了解した。店主には混雑時の対応を今一度改めてもらうこととしよう」
確かにずいぶん人が集まったおかげで、店の外にまで騒ぎが拡大しちゃってたからね。
対策は必要かもしれない。
僕は納得していると、シルヴィアが周囲を見渡した。
「ところで、そのライム殿の姿が見えないようだが……」
「ライムは今ちょっと用事があって離れててね。この店で待ち合わせているところなんだ」
「なるほど、それはわかったが……。先ほどから私たちの仲をうらやましそうに見ているあそこのちびっ子は誰だ?」
シルヴィアの声の温度が、急に10℃くらい下がったように感じられた。




