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私だって知りませんでした

 ライムと別れた僕は、ニアと一緒に昨日の食堂へと向かっていた。


「それにしても、ライムが一人で行動したいなんて珍しいな」


「そうなんですか?」


 ニアが不思議そうにたずねてくる。


「そうだね。いつもは僕と一緒にいたがるから。いつもの町ならライムにも友達がいるだろうからわかるんだけど、王都でなんの用なんだろう……」


 ライムにだってプライベートくらいあるんだから、いちいち行動を詮索するのも悪いかなと思って聞かなかったけど……。

 ううん、やっぱり気になるなあ……。

 戻ってきたらそれとなく聞いてみようかな。


 となりでニアがはっとしたように顔を上げた。


「ライムさん、まさか、私と師匠を二人っきりにするために……?」


 ニアもなにかを考えるようにつぶやいていた。


「ライムさんの気遣いを無駄にするわけには……。し、師匠っ!」


「どうしたのニア?」


「あの、私と、その……」


 両手を組んでもじもじと恥ずかしそうに動かしたあと、やがて意を決した顔で口を開いた。


「私と手をつないでいただけないでしょうか!?」


 なんだか一世一代の告白をするみたいな勢いでいってきた。

 どうしてそんなに緊張しているのかわからないけど……。

 確かにそろそろ人も多くなってきたから、はぐれないようにしたほうがいいかもしれないね。


「そうだね。じゃあそうしようか」


 手を差し出すと、ニアがおずおずと手を伸ばしてくる。

 その手を握りしめて、僕らは再び歩き出した。


 僕の手より一回りも小さなその手のひらに、ニアがまだ幼いと言っていいくらいの女の子であることを改めて認識する。

 なんというか、まるで妹みたいだ。

 妹ができると、なぜかものすごくかわいくてその子を守ってあげたくなるというけど、きっとこういう感じなのかな。


 手をつないで歩くのはちょっと恥ずかしいけど……、でも、ニアは今まで一人で頑張ってきたんだ。

 だったら僕も、これくらい我慢するのは当然だよね。


 ただ……。

 ニアは手をつないだまま、両手を僕の腕に抱きつくみたいに回してきた。

 ちょっと恥ずかしいけど、ふりほどこうという気にはならなかった。

 むしろ仲のいい妹ができたみたいだ。

 けど……。


「えへへ……。師匠と二人でお出かけなんて、まるでデートみたいでうれしいです」


「あの、ニア。そういってもらえるのはうれしいけど、もう少し離れたほうが……」


「……お嫌でしたか?」


「嫌ではないんだけど……、みんなが僕たちのほうを見てる気がして……」


 すれ違う人たちのほとんどが僕とニアを振り返っている。

 ニアはかわいいし、なによりS級冒険者として名高い有名人だ。

 一緒に歩いていれば注目されるのは当然だった。


 ニアもそれに気が付くと、なぜかよりいっそう抱きついてきた。


「本当ですね。これじゃあまるで私たちが師弟の関係を超えた禁断の愛に走っていると噂が立っちゃうかもしれません。それは困っちゃいますね?」


 そういいながらますます抱きつく腕に力を込める。


「全然困ってるように見えないんだけど……」


「ええー? そうですか? 私はさっきからもう心臓がバクバクしてていつ師匠に聞かれるんじゃないかとすごく困ってるんですけど」


「自分でいっちゃってるけど……」


「ええー、もしかして私が師匠のことを好きだってバレちゃってますか?」


 なんだろう。

 なんかニアの雰囲気がいつもと違う。

 確かにここ最近のニアはいつもと違ってる気はしてたけど、今日は特に甘えているというか、口調もどことなく幼くなった感じがする。

 というより、本来のニアの性格に近くなったのかなあ。


 むしろいつものほうが気を張ってるせいで固い口調になっていたのかもしれない。

 つまり今のニアはそれだけリラックスできてるって事でもあるよね。

 そう考えたら抱きつくニアをふりほどくなんてできる訳がなかった。


「しょうがないなあ。ニアがこんなに甘えんぼだなんて知らなかったよ」


 そういうと、ニアが不満そうに口をとがらせた。


「私だって昨日まで知らなかったんですよ。師匠のことがこんなに大好きだったなんて……」


 不満を口にしながら、赤い顔をうつむかせる。

 そんな表情もわがままな妹って感じでかわいいなんて思ってしまう。

 さすがに口に出してはいわないけどね。


「だから私はもう師匠なしでは生きられないので、ちゃんと責任とってくださいね」


「僕にニアの師匠なんて務まるとは思えないけど……。でも、ニアのお手本になれるようにがんばるよ」


「そういう意味じゃないんですけど……。でも、そういう師匠も大好きです♪」


 そういってますます強く抱きついてきた。

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