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格付けが済んだようだな

 抜刀術で不意を付けばその瞬間に武器を破壊される。

 武器を持って囲めばあっというまに全員が無力化される。

 必殺の三連銃は傷ひとつ付けられず、あっさりと受け返される。


 攻撃の成功するイメージがわかない。

 なにをしても失敗する気がする。

 足が震えて前に出ることさえ出来なかった。


 それでも、それでも俺は……っ。


「そこまでにしておけ」


 部屋の奥から貫禄のある声が響き、小柄な老人が現れた。

 部下どもが一斉に頭を下げる。


「「ボス! お疲れさまです!」」


 俺もすぐに頭を下げた。


「お騒がせして申し訳ありません。すぐにこの女を……」


「やめておけといっただろう」


 静かな口調であったが、それだけで俺は動けなくなった。


「自分の中で相手を肥大化させすぎ、敗北するイメージを植え付けられてしまった。自分ではもうなにをやっても勝てないと思ってしまう。それは俗に言う『格付けが済んだ』というやつだ。

 こうなってしまってはもう、お前ではそこの嬢ちゃんに勝つことは出来ないよ」


「……」


 なにも言い返すことができなかった。

 悔しさをこらえるように奥歯を強くかみしめる。

 そのあいだにボスは俺の横を通り過ぎ、女の前に立った。


「儂の命を狙いにきたのか、それとも自分の実力を売りに来たのか。どちらにしろ、お嬢さんのような者は最近では減ってしまってなあ」


「そうなんですか?」


 無邪気に聞き返す女に、ボスが珍しく柔和な笑みを浮かべた。


「ああ、そうなのだよ。昔は儂も無茶をしたものだ。刃向かう者も、いつかは刃向かいそうな者も、皆倒して回ったものだよ。ところが最近はどいつもこいつもお行儀が良くて少し退屈でなあ。お嬢さんの返答次第ではまた楽しめそうだが、ここに来た理由を尋ねてもいいかね」


 そういうボスの目は鋭く女を射抜いている。

 見る者によってはそれだけで失神してもおかしくない鋭い視線だ。

 しかし女は平然と答える。


「ここの人間どもがカインさんの命を狙っていたので、止めに来たんです」


「ほう……」


 ボスの目が細くなる。


「お嬢さんはそのカイン殿の奥さんかね?」


 問いかけたとたん、女の表情がゆるみきった笑みに変わった。


「あっ、やっぱりそう見えちゃいます~? もう困っちゃうなあ~。でもカインさんはまだ夫婦じゃないって認めてくれないんです……。

 おじいさんもカインさんを知ってるんですか?」


「知っているといえば知っている」


 その答えに室内が音のない緊張で満たされた。

 あのボスが名を覚えているということは、それだけの価値がある人物ということだ。


「直接会ったことはないが、名前は何度か耳にしているのでね」


「そうなんですか。カインさんはわたしの命の恩人なんです。だからカインさんのことはわたしがお守りすると決めてるんです。この命に代えても。絶対に」


「はっは。今時なんとも勇ましいお嬢さんだ。

 そういうことならもう心配はない。儂等がそのカイン殿の命を狙うことはもうないから安心していい」


「ほんとうですか?」


「うむ。それは信用してもらってかまわん。儂等はこういう商売をしているからこそ、約束は必ず守る。そして約束を破った者には必ず制裁を加える。その『信用』が儂等の売り物じゃからの。

 そしてその信用を最も大切にするからこそ、今ここでお嬢さんをただで帰すわけにはいかないのだ。

 うちの若いもんが全員でかかってもお嬢さん一人に敵わないだろうが、こうなってしまった以上引くわけにはいかなくてな。わかるかね?」


「んー? よくわからないです。人間の細かい生活にはまだ詳しくなくて」


「確かにお嬢さんほど強いとわからないかもしれないが、儂等は弱いと思われたらその瞬間に周りから貪り食われるのだよ。

 女一人に負けたなんて噂が立てば儂等の家業はあがったりだ。だが、もしお嬢さんが儂等と取引をするというのであれば、お互いパートナーということになる。この場を穏便に流すこともできよう。儂等のお願いを聞いてくれるかね」


「うん、いいよ」


 あまりにもあっさりとうなずいたので、さすがのボスも驚いたようだった。

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