化け物
あの金髪女の髪が数本、宙を舞った。
風もないのにいったいなんだ、と思った次の瞬間、手にした武器が粉々になって床に落ちた。
それも俺一人じゃない。
ライムとかいうあいつを囲む俺たち全員の武器が、だ。
ガラガラと音を立てて崩れ落ちていくのに、俺たちの体には傷ひとつ付いていない。
なにをしたのかまるで見えなかった。
ただふわりと髪が舞っただけだ。
それだけで、背後に回った男たちまで一斉に無力化されてしまった。
女が首を巡らし、俺たちに向けていう。
「カインさんが人間は殺すなというので殺しません。
でも、カインさんを悲しませるようなことをしたら、絶対に許しませんからね」
「は、はい! わかりました!」
部下どもはすっかり萎縮して返事をしていた。
無理もない。
これほどまで明確に実力の違いを見せつけられたんだからな。
だが。
「こちとらこれで飯食ってんだ……。負けたからはい降参ですって引き下がってたら、この世界じゃ生きていけねえんだよ!」
俺は懐から銃を取り出した。
しかもただの銃じゃない。
銃口が3つ並んだ連続銃だ。
一発だけでも十分な殺傷力のある銃弾を、連続で三発も打ち出す裏社会の最新兵器。
音速を超える弾丸を避けることは人間には不可能。
仮に一発を防ぐことが出来ても、残り二発が確実に命を奪う。
かの「ドラゴンスレイヤー」でもこいつにかかれば死を逃れられないという最強の武器だ。
「それはなんですか?」
女が首を傾げる。
どうやら銃を知らないらしい。
となればこれが武器だと認識することもできないだろう。
「俺からてめえへのプレゼントだ。ありがたく受け取りな」
女に向けて引き金を引いた。
三発の銃声が連続して響く。
俺は勝利を確信した。
これ一発で半年分の稼ぎがなくなるため、三発打てば一年半の稼ぎが吹っ飛ぶ。
だが、「確実に殺せる」という看板は、この世界ではそれだけの価値がある。
恐怖は力だ。
そしてそれこそが、この世界で生きていくのに最も必要なものだ。
連射された銃弾はすべて女に命中する。
が、しかし。
そいつは無傷のまま立っていた。
体の表面に小さな波紋三つだけが残されていた。
な、なにが起こった!?
よけるでもなく、弾くでもなく、すべて吸収しただと!?
いったいなんの魔法なんだ!?
混乱する俺を後目に、女が首を傾げる。
「うーん、これは鉛ですか? あまり美味しくないですね。それに確か人間が食べたら毒だったような……。せっかくいただいたものですが、やっぱりお返しします」
手のひらを開く。
そこに乗っていたのは三発の銃弾だった。
全身が総毛立った。
避けることも、防ぐことも不可能だった。
そして女はそのどちらもせず、すべて受け止めて返してきた。
格が違う、なんてレベルじゃない。
「お前、化け物か……」
震える俺に、女は少しだけ傷ついた表情を浮かべた。
「そういわれることも、たまにあります」




