警告
カインさんと別れたあと、わたしは一人で人間の街を歩いていた。
はじめは人間というだけで怖かったけど、カインさんと出会って人間の街で暮らすうちに、そしてカインさんと一緒に過ごすうちにそれも慣れてきた。
人間にも色々な者がいる。
カインさんのようなステキな人もいるし、セーラのような優しい人もいる。
いつも住んでいる町には親切な人がたくさんいて、とても良くしてもらっている。
怖い人もいるけど、温かい人もいる。
それが人間なんだ。
だけど。
首の後ろあたりをちりちりと焦がすような感覚。
この感覚は知っている。
忘れるはずがない。
カインさんに会う前、一人で逃げながら暮らしていた頃にさんざん感じてきた。
言葉にするのは難しいけれど、自分の中の本能が告げている。
近くに敵がいる。
気配をたどってたくさんの道を歩いた。
広かった道は次第に狭くなり、歩く人間の数も減っていく。
まだ朝を少し過ぎたばかりなのに、なんとなく薄暗く感じはじめてきた。
すれ違う人間はわたしの顔や胸ばかりをジロジロと見つめてくる。
吹き抜ける風はなま温かくて不快な匂いがした。
まるで掃き溜めみたい。
そんなことを思いながら、気配がする家の扉に手をかけた。
鍵がかかっていたのでそのまま押し開く。
金具が弾け飛びんで室内を転がり、中にいた人間たちが驚いた顔でわたしを振り返った。
「てめえは……!? どうしてここに……!」
立ち上がった男は、さっきカインさんに武器を突きつけようとした人間だった。
カインさんを傷つけようとしたから脅してやめさせたんだけど、その殺意は今度はわたしへと向けられている。
それはかまわない。
カインさんに向けられていた殺意をわたしに変えられたのなら、それだけ守ることができたということだから、むしろ素晴らしいことだ。
でも。
この家にいる人間は一人ではなかった。
複数の人間がテーブルを前にしてなにかを話している。
その中には、あのとき冒険者協会とかいう建物の中で見た人間もいた。
やっぱり仲間がいたようだ。
その仲間たちが集まってなんの相談をしているのか。
「今度はなにをするつもりなんですか」
「……なんでここがわかった……」
男がうめくようにたずねてくる。
「わたしは人間の常識はわかりませんが、人間の怖い部分については詳しいんです。さんざん追いかけられましたから。だから、あなた方のような人の気配はすぐにわかります」
「……俺たちの考えがわかるってか。お前もずいぶんとこっち側の人間のようだが……そうと知ってて乗り込んでくるとは、ずいぶん舐められたもんだな」
「わたしは人間ではないです」
「はっ。自分は化け物だっていいたいのか? だったらこっちも本気でいかねえとなあ?」
男の声に合わせて、他の人間たちも立ち上がる。
いつのまにか背後にも現れていて、周囲をすっかり取り囲まれていた。
手にはそれぞれ武器を持っている。
「俺にもプライドってもんがあってよ、大人しくやられっぱなしでいられるほどお利口じゃねえんだよ。どうやって復讐するか考えていたが、そっちから来てくれるんなら手間が省けて助かるぜ。さすがにこの人数を相手したら勝ち目はないだろ?」
人間には色々な者がいる。
こちらの居場所を探る不思議な術を使う者や、恐ろしい魔法を放つ魔法使い、遠くから気配を感じただけで逃げ出したくなる人間など。
わたしを追いかける人間たちは、信じられないほど強い者が多かった。
そして。
目の前の人間たちからは、なんの脅威も感じなかった。
わたしは小さくため息をつく。
「カインさんは優しいですから皆さんのことも許してくれますが、わたしもそうだとは言ってません。あなたたちが今こうして生きているのも、カインさんの優しさがあってのことです。もしその優しさを裏切るようなことがあれば……」
背中の髪の毛がふわりと揺れる。
細く長いそれは、一本一本が自在に操ることのできるわたしの武器でもある。
そのうちの数本が風の中で舞い踊り……。
「……なっ!?」
驚愕する人間たちの声と共に、手にした武器がバラバラになって床に落ちていった。




