その剣はなんのためですか?
朝から冒険者協会でイチャついてるムカつく野郎がいたので、ちょっと脅かしてやることにした。
俺が剣を抜くと、すかさず警告する声が響いた。
「協会内で暴力は厳禁ですよ!」
鋭く警告したのは冒険者協会の職員の女だ。
「違反した人は無期限の追放処分ですからね!」
「ビビってんじゃねえよ。まだ抜いてねえ。手をかけただけなら問題ない。そうだろ?」
「それは……そうですが……」
歯噛みしながらうなずく。
ふん。それでいい。
俺だって抜くつもりはない。協会を追放されると飯の種に困るからな。
どうせこの男もすぐにビビって、助けてくれ、なんていってくるだろ。
そうしたらそれで終わりだ。
ニアの奴がどうしてこんな男と一緒にいるのかわからねえが、実力の差って奴がわかれば愛想を尽かすだろう。
そんなことを考えてほくそ笑む俺の目の前に、いきなり人影が現れた。
「その剣をどうするつもりですか?」
さっきまで男の腕にすがりついていた金髪の女だ。
恐ろしいほどの美人で、俺でさえ直視するのを躊躇するほどだ。
いや、そんなことはいい。
こいつはさっきまであいつの腕に抱きついていたはず。
それが、いったいいつのまに間合いを詰めてきたんだ?
移動どころか、動き出しのタイミングさえ見えなかった。
脳内で警報が響く。
この女、見かけによらずただ者じゃねえ。
だがなめられるわけにはいかない。
俺は金髪女の瞳を真正面から睨み返してやった。
「そこの男の実力を確かめてやるのさ」
しだいに騒ぎに気づいた奴らが周囲を集まりはじめた。
「協会内で乱闘かよ……。あいつなに考えてるんだ……」
「おい、あいつって確か、SS級冒険者のツルギじゃないか……?」
ひそひそとかわされる声が徐々に大きくなってくる。
「ツルギだって? 聞いたことあるぞ。確か、王都でも数少ないSS級冒険者だとか……」
「実力は確かなんだが、酒癖と性格に難ありとかで、未だにまともなパーティーも組んだことがないらしいな」
「なんでも暴れると手がつけられないそうだ……」
「むしろそれでSS級になれるってことは、相当な実力があるってことだろ……」
そんな話を聞くうちに、俺は自分の中に自信が戻ってくるのを感じていた。
そうだ。俺はこの王都でも数えるほどしかいないSS級の冒険者だ。
実力でいったらあのニアも超える。
さっきはまさかこの女がこれほどの腕を持っているとは思わなかったからな。
だがもう油断はしない。
この金髪女がどれくらいの実力者か知らないが、油断さえしなければこの俺が負けるはずはないんだ。
それに、この噂を流しているのは俺の仲間だ。
誰だって俺のランクを聞けばビビるに決まっている。
ほら見ろ。
あの優男も慌てたように金髪女の元へと駆けていった。
そしていかにも心配そうな表情でこういった。
「ライム、ケンカはダメだっていったよね?」
「ケンカじゃないです。だから大丈夫です」
「そのわりにはあまり良くない雰囲気に見えるけど……」
「ちょっと話をしにきただけです」
「それならいいけど……。なんにしても、相手にケガをさせるようなことだけはしないでね」
……は?
こいつ、今なんていった?




