警告
「お前みたいな弱っちいやつがS級クエストだなんてふざけるんじゃねえぞ!」
急に怒声が響いた。
僕らに向けて一人の冒険者が近づいてくる。
その人は僕の目の前で立ち止まると、にらみつけるように僕を顔をのぞき込んできた。
「さっきちらっと話が聞こえたんだがよぉ、てめぇ、例の『ゴールンデスライムの涙』のクエストに挑むらしいなあ?」
近くに寄ってきてわかったけど、お酒の匂いがかなり強く漂ってきた。
まだ朝なんだけど、どうやらかなり飲んでるみたいだ。
「ゴールデンスライムの涙は幻中の幻のレアアイテム。この俺だって見つけられるかわからねえ。お前みたいな弱そうな奴には無理に決まってる。さっさとあきらめるんだな」
そんなことをいってくる。
どうやら難しいクエストに挑戦しようとしてるから止めてくれてるみたいだ。
それはとてもありがたいし、僕としても涙を本当に見つけられるなんて思っていない。
普段だったら挑戦していなかったと思う。
でも今回ばかりは事情があるんだ。
「忠告ありがとうございます。でも今回は事情があるので、話だけでも聞いてみようと思います」
今回の目的は、依頼人がゴールデンスライムのことをどこまで知っているのか調べること。
もっというなら、ライムの正体を知っているのかどうかが重要なんだよね。
それさえわかれば、クエスト自体は失敗でもいいし、この人のいうようにやめたっていいんだ。
だけど、男の人はそれでは納得しなかったみたいだ。
「んだとぉ? この俺の忠告が聞けねえってのか?」
「いい加減にしなさいよみっともない」
キツい言葉を放ったのはニアだ。
「自分にできないから相手をリタイアさせようって発想が卑屈なのよね。そこまでいうなら自分でクリアしてみなさいよ。そうすればそんなご忠告だって必要ないでしょ」
容赦ない物言いに男性の顔が引きつったけど、その相手がニアだとわかると途端に口元を笑みの形に変えた。
「ほう、ニアじゃねえか。なんでこんな男と一緒にいるんだ?」
「別になんだっていいでしょ。あんたに教える義理はないわ」
いつも思うんだけど、ニアは人によって態度が違いすぎないかな。
裏表があるというより、嫌いな人に対しては当たりが強すぎるんだよね。
よけいな恨みを買わないか心配になってくる。
まあニアは僕なんかよりもはるかに強いから、ちょっとケンカになった程度じゃ負けるわけないんだけど……。
「俺の誘いは断ったくせに、そこの男とは一緒にいるってか。そんなひょろっちい男のどこがいいのか知らねえが、俺と組めば天下も取れる。今からでも遅くねえ。考え直して……」
「お断りよ」
男の言葉を遮ってニアがぴしゃりと言いきった。
「何度も言ってるでしょ。アンタなんかと組むつもりはないわ。しつこい男は嫌われるって聞いたことないの? だからモテないのよアンタは。
それに師匠は私の人生の師匠なの。つまり永遠のパートナー。一生死ぬまで一緒なんだから。ねっ、そうですよね師匠」
ニアがわざとらしく腕に抱きついてくる。
まるでここに集まっている周囲の人たちに自分の関係を見せつけるかのようだけど、さすがに僕の考え過ぎだよね。
たぶんこの冒険者へと当てつけだろう。
それはそれで困るんだけど……。
「う、うん。そうだね」
ニアの師匠だなんておこがましいけど、一応そういうことになっているから僕としてもうなずくしかない。
一生一緒かはさすがにわからないけど……。
「わたしだってカインさんと一生一緒にいるんですから!」
ライムが反対側の腕にしがみついてくる。
絡んできた男は、いきなり目の前でイチャつかれたからか、見るからに顔つきが不機嫌そうにゆがんでいった。
「てめえ、いい度胸じゃねえか……」
「度胸があるのは僕じゃないんだけど……」
主にニアとライムだ。
僕としてはむしろ離れてもらいたいんだけど、がっちりとつかまれるとどうしようもない。
レベル1の僕に対して、ニアはレベル50を超えているし、ライムにいたってはドラゴンをワンパンで倒せるほどの力を持っている。
ふりほどけるわけがなかった。
「いいだろう。てめえみてえな軟弱者に資格があるが俺様が直々に確かめてやるよ……」
そういって腰の剣に手をかけた。




