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ちょっと複雑ですね

「朝ですよ! 交尾の時間は終わりです!」


 いきなりライムに布団をはぎとられた。


「交尾は昨日の夜だけの約束です! 一人の寂しい夜をガマンしたんですから、今日はわたしがいーっぱいカインさんに甘える番ですからね!」


 怒ったライムの声が聞こえてくる。


 うーん、どうやらもう朝みたいだ。

 それにしてはずいぶん眠い気もするけど。

 なんか全然寝た気がしないなあ……。


 僕はうっすらと目を開いた。

 窓の外に目を向けると、王都の街並みの向こうに太陽がちょっとだけ顔を見せはじめたところだった。

 空も白みはじめたばかりで、まだまだ暗い。

 なんなら空にはまだ星が残っているくらいだ。


「これはまだ朝とはいわないんじゃないかなあ……」


「朝日が顔を出したから朝なんです! だから約束の時間はもう終わりなんです!」


 なんだか強引な気もしたけれど、確かに朝といわれたら朝かもしれない。


 それにしても、なんだか腕の中があたたかい。

 そう思って腕の中を見てみたら、ニアが安らかな寝息をたてていた。

 ちょうど僕らは正面から抱き合うみたいな体勢になっている。


「うわわっ!?」


 そういえば昨日はニアを抱いたまま寝ちゃったんだっけ。

 思わず離れてしまいそうになったけど、ニアのあどけない寝顔と、うっすらと残る涙のあとを見て、なんとかこらえることができた。


 ニアは一人でずっとがんばってきた。

 誰かに甘えることも、弱さを見せることもできずに、ずっと一人で強がることしかできなかった。

 そんなニアが安らかな顔でしっかりと抱きついている。

 その腕をふりほどくなんて、できる訳ないよね。


 それはライムも同じだったのか、何もいわずに僕の後ろから抱きついてきた。

 ニアを起こさないように気を使ってくれたのかな。


「今日はカインさんとずーっと一緒ですぅ……むにゃむにゃ……」


 あっ、普通に寝てるだけだった。

 まあまだ朝も早いからね。

 ライムもきっと眠たかったのかな。


 それにしても、ニアのベッドはただでさえ狭いのに、ライムまで入ってきたからさらに狭く感じる。

 二人とも落ちないように体の位置を動かしていたら、腕の中でニアが目を覚ました。


「……んっ、ししょう……?」


「ごめん、起こしちゃったかな。おはようニア」


「あれ、いつのまにか寝ちゃってましたか……。ごめんなさい、迷惑をかけてしまったみたいで……」


 ニアが眠そうに目をこすろうとして、僕にしっかりと抱きついていることに気がついた。

 あうあうと言葉にならない声を上げるけど、やがてがっくりとうなだれた。


「うう……。だんだん思い出してきました……。せっかくの師匠との夜だったのに、本当に寝るだけで終わっちゃうなんて……。こうして抱いてもらえるのはとてもうれしいのですが……」


「あっ、ごめんね。いつまでもこうしてたら起きられないよね」


 あわてて腕を離したけど、ニアは離れようとはせずに僕の顔を見つめていた。

 その頬がちょっとだけふくれる。


「……ライムさんも一緒なんですね」


 僕の背中から抱きつくライムに視線が向けられていた。


「うん、もう朝だからっていって起こしに来てくれたんだ」


「朝、ですか……」


 ニアが窓の外に目を向ける。

 昇りはじめたばかりの朝日が顔をのぞかせているところだった。

 うん、全然朝には見えないよね。


「昨夜だけという話でしたから仕方ないですね。それに、昨日は恥ずかしいところも見せてしまいましたし……」


 昨日大泣きしちゃったときのことをいってるのかな。


「そんなの気にしなくていいよ。僕のおかげでニアの気が晴れたのなら、それが一番うれしいから」


 ニアの頭をなでてあげる。

 なんだか妹みたいに思えて、ついついそうしてあげたくなっちゃうんだよね。

 ニアはいやがる様子もなく、気持ちよさそうに目を細めた。


「んっ……。師匠の手はあたたかくて、気持ちいいです……。

 最近はちょっと寝不足だったのですが、昨夜はぐっすり寝ることができましたし。きっと師匠のおかげですね」


 やがて視線を戻したニアが、僕の胸に顔を埋めてきた。


「私は今もこんなに心臓がドキドキしてるのですが、師匠は平気そうですね。なんだかズルいです。やっぱりライムさんと毎日寝てるから、これくらいでは驚かないんですね」


「えっと、別にライムとは毎日寝てるわけじゃないというか……僕も結構いっぱいいっぱいというか……」


 今だって前後から二人に抱きつかれてて、結構ドキドキしてるんだけどな。

 ニアが僕を見上げて不満そうに頬を膨らます。


「でも、私みたいなかわいい女の子と寝てるのに、手も出さなかったじゃないですか」


「ええっ! いや、いくらなんでもさすがにそれは……」


 さすがにニアみたいな小さな子にそんなことするわけにはいかないというか……。

 いや大人なら誰でもいいってわけじゃないけど……。


 答えに困っていると、やがてニアがふふっと小さな笑みをこぼした。


「冗談です。困らせるようなことをいってごめんなさい。昨夜は師匠と一緒に眠れてとても光栄でしたし、とてもうれしかったです」


 ニアはそう言ったけど、でも、とわずかに笑顔を曇らせる。


「……好きな人がそういう事に慣れてるのは、ちょっと複雑ですね……」


 そういって少しだけ寂しそうに笑った。

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