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二人きりの夜

 ニアに手を引かれながら、緊張する足取りで廊下を歩く。

 そのあいだ僕らは一言も発しなかった。

 触れる手のひらごしにも震えが伝わってきたから、ニアも緊張しているのがわかる。


 やがてひとつの扉の前で立ち止まった。


「ここが、私の部屋、です……」


「そ、そうなんだ……」


 そんなどうでもいいことしか言えないでいるあいだに、ニアが扉を開けて僕を招き入れる。


「あの、散らかってますけど、どうぞ……」


 ニアの部屋は、家の大きさの割には普通の広さだった。

 そして当たり前だけど、全然散らかってなんかいない。


 棚やテーブルといった普通の家具の他に、マントやナイフ類など冒険者の必需品が置かれている。

 かとおもえば、その横にはかわいらしいぬいぐるみが飾られていたりする。

 そんな様子に思わずほっとしてしまった。


「かわいい部屋だね」


 口をついて出た正直な感想に、ニアもかすかな笑みをほころばせる。


「ありがとうございます。

 男の人を部屋に入れるのは初めてなのですが……、なんだか恥ずかしいですね……」


 照れたようにつぶやく。

 僕たちは部屋の入り口で立ち止まったまま奥に進めないでいた。

 部屋の奥にはベッドがあるのが見える。

 なるべく見ないようにしていたけど、どうしても意識してしまうのは仕方がなかった。


 女の子の部屋に、男女が二人で入る。

 意識するなというほうが無理なシチュエーションだ。


 それにライムにも「交尾をしたいんですか?」「子供を作りたいのなら今夜だけかまわないです」なんていわれたから、よけいにそういうことを想像してしまう。


 うう……。なんだかものすごい緊張してきた……。

 立ち止まったまま一歩も動けない僕を、ニアが目を合わせずに小さな力で引っ張った。


「えっと、師匠……。私、とても緊張してて、あの……できれば、師匠から、その……」


 小さな声はかわいそうなくらいに震えていて、今にも泣き出しそうだった。

 僕も緊張しているけど、ニアのほうが何倍も緊張している。

 そんなの当たり前だよね。

 もっと僕がしっかりしないと。


「あ、ああ。そうだよね。うん……。えっと、それじゃあいこうか……」


「はい……」


 ニアの手を引くようにして部屋の奥へと……、ベッドへと向かう。

 ううう……。なんだこれ。

 小さな女の子の手を引きながらまっすぐベッドに向かうこの状況は、なにかものすごくイケナイことをしている気分になる。

 つないだ僕たちの手は熱いくらいに体温が上がっていたけど、それがニアの手のひらからなのか、僕の手からなのか、全然わからなかった。


 広くない部屋のおかげであっというまに目的の場所についてしまう。

 まだ全然心の準備ができていない。


 今日の目的は、あくまでも寝るだけ。

 宿がどこも満室だったから、ニアの家に泊めてもらうだけだ。

 それ以上の意味はない。

 ライムに色々いわれたけど、それ以上の意味はないったらない。

 他のことは何もしないからね。


 自分にそういい聞かせて、ようやく心が落ち着いてきた。

 ベッドの端に腰掛けてニアを手招きする。


「それじゃあニア、おいで」


「は、は、はい……」


 ガチガチに緊張した足取りで近づいてくる。

 僕のとなりにポスンと音を立てて座ると、そのままうつむいて動かなくなってしまった。


 そりゃあ緊張するよね。

 僕だってすごく緊張している。

 心臓がさっきから音をたてて鳴りっぱなしだ。


 だからこそ、男の僕が勇気を出してニアをリードしてあげないといけないんだ。

 そっとニアの肩に手をかけると、優しく力を込めた。


「あっ……」


 ベッドの上で仰向けに横たわったニアが、小さく吐息をもらした。

 ちょっと押し倒すみたいな形になっちゃったけど、痛くならないようにゆっくりと優しくしたから大丈夫だよね。


 ニアが赤い顔のまま潤んだ瞳で僕を見上げている。

 熱い吐息をもらしたまま声も出ないみたいだった。

 まだちょっと緊張してるみたいだったので、緊張をほぐすように頭をなでてあげた。

 なにかを考えたわけじゃなくて自然と手が動いたんだけど、それが結果的によかったみたいだ。


「師匠……」


 声に固さがなくなっている。

 緊張が和らいだのを感じた。

 熱を帯びた瞳が、まるでなにかを期待するように僕を見つめる。


 その想いに誘われるようにして、僕もニアの横へと同じように横たわった。

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