そんなに子供がほしいんですか
ニアの家には、ニアの部屋と、来客用のゲストルームがあるという。
案内されたゲストルームは広かったけど、ベッドはひとつしか置かれていなかった。
「それじゃあ僕は一人で寝るから、二人は別の部屋を使ってもらえるかな……」
一応言ってみたけど、すぐにニアが僕の腕に抱きつくようにして引き留めた。
「ここはライムさんに使ってもらいますので、師匠は私の部屋に行きましょう」
ニアが僕の腕を引っ張る。
すぐに反対の腕にライムが抱きついてきた。
「ダメです! カインさんはわたしと一緒に寝るんです!」
「でもライムさんはいつも師匠と一緒に寝ているんでしょう。今日くらい私が一緒に寝てもいいじゃないですか」
「そんなの……!」
ライムがなにかを言おうとして、急に口をつぐんだ。
そんな態度を取るなんて珍しい。
どうしたんだろうと思ってみてみると、不機嫌そうに頬を膨らませながらも、少しだけ表情を和らげた。
「……ニアちゃんは、カインさんと交尾がしたいんですか?」
「ふぇっ?!」
いきなりの質問に、ニアが音のはずれた声を上げる。
「いや、その、いきなりそんなこといわれても……こここ、交尾だなんて、そんなの早すぎるっていうか、そういうことはもっと段階を踏んでからというか……もちろん、いつかは……したい、ですけど……」
真っ赤な顔でそう答えるニア。
僕に抱きついていた腕も離れて、恥ずかしそうにうつむいている。
いきなりそんなことを言われて僕もどう反応していいかわからないんだけど……。
ライムだけはまだ苦い野菜を生でかみしめたみたいな顔をしていたけど、口調は落ち着いていた。
「そうですか……。ニアちゃんはそんなにカインさんの子供がほしかったんですね」
「ふえぇっ!? こ、こども……!?」
話の飛躍にニアはついていけないみたいで、顔を真っ赤にしっぱなしだった。
ついさっきまではライムとどっちが僕のことを、その……好きか言い合っていたのに、今ではすっかり大人しくなってしまっている。
S級冒険者としての顔ばかり見てきたけど、こうしてみればニアはやっぱりまだ幼い女の子なんだということを実感するよね。
……いやまあ、ニアじゃなくたってこんなことをいわれたら驚くと思うけど。
そういう僕だって動揺しっぱなしでなにも言えないでいるし……。
「カインさんはわたしのものなのでニアちゃんにあげることはできませんが……、カッコよくて優しくてすばらしいカインさんの優秀な遺伝子をわたし一人が独占することは世界にとっても大きな損失だとあのドラゴンもいっていましたし……」
さすがにエルもそこまではいっていなかったと思うけど……。
「もしニアちゃんがそこまでカインさんの子供をほしいのなら、今夜だけはガマンしてあげます」
そういって僕たちの背中を押して廊下へと追いやる。
扉を閉める直前に、隙間から顔をのぞかせた。
「でも、今夜だけです! 今夜だけですからね!」
そう言い残すと、音を立てて扉を閉めた。
「ええっと……」
残された僕たちのあいだには気まずい沈黙が流れていた。
やがてニアが小さな力で僕の袖を摘む。
「あの、それじゃあ師匠……」
真っ赤になった幼い顔に精一杯の勇気を宿らせて、僕の瞳を見上げた。
「私の部屋に、来てくれますか……?」
ごくりと僕の喉が音を鳴らした。




