王都騎士団団長アルフォード
「驚かせてしまったならすまない。私は王都騎士団団長、アルフォードという」
「あ、ええと、はい。こんにちは……」
緊張してしまってまともな挨拶も返せなかった。
兜の下から現れたのは、美青年という言葉がピッタリのものすごくカッコいい人だった。
「えっと、僕はカインといいます。後ろのこの子がライムです」
紹介されてもライムは僕の背中から動こうとしない。よっぽど怖いんだろう。
ただ、目の前のアルフォードさんから怖そうな雰囲気は感じられなかった。
騎士団団長といえば貴族中の貴族だ。
そんな人相手に顔も見せないなんて無礼きわまりないけど、目の前の騎士はそれを咎めようとはしなかった。
それどころかひざを突き、僕たちに目線を合わせてくれさえする。
「こんな物々しい一団が現れては怯えるのも無理はない。重ねて非礼をわびさせて欲しい」
「あ、いえ、大丈夫です。ライムはちょっと……人見知りなだけなので」
「ふむ……」
アルフォードさんがじっと僕を見つめ、それから背後のライムに目を向けた。
僕の背に隠れてるから、正面からだと震える手ぐらいしか見えないかもしれないけど。
やがてフッと柔和な笑みを浮かべた。
「どうやら我々は退散した方がいいみたいだな」
そういって立ち上がると背を向ける。
その背中に向かって僕は声をかけた。
「あ、あの。王都の騎士団の方が、どうしてこんなところに?」
しかもアルフォードさんは騎士団団長だという。その立場は、王族にかなり近いところにいるはずだ。
そんな人がどうしてこんな田舎にきたのか……。
モンスターや盗賊討伐とかならいい。でももし、レアモンスターの目撃情報が入ったのだとしたら……。
たとえ危険でも、それをどうしても聞いておかなければいけない。
アルフォードさんは足を止めて振り返ってくれた。
「実は隣国より、この辺りに凶悪な魔獣が向かったとの知らせが入ったのだ。この辺りは開けた土地が多いから、山頂から監視すればすぐに発見できるのではと思ってね」
なるほど。
確かに山頂からこの辺りが一望できるから、周囲を監視するならちょうどいいかもしれない。
とにかく、ライムを探しにきたのではなかったらしい。
ちょっと安心した。
「ええと、山頂はそれほど広くないので、監視役の人を何人か残して、残りはふもとで待機する方がいいと思います」
「なるほど。それは貴重な助言だ。ありがたく参考にさせてもらおう」
そう告げると坂を上っていった。
監視役と二手に分けなかったのは、そうするとライムと一緒に降りることになってしまうからだろう。
怯えるライムを気遣ってあえて全員で山頂に向かったんだ。
「いい人だったね」
背後を振り返ってライムに話しかける。
ライムの表情はだいぶ和らいでいたけど、まだ少し青冷めていた。
「あの足音が苦手で……」
確かにあの一糸乱れない足音の行軍は、否応なく大軍に迫られるような威圧感があって、僕が聞いても迫力がある。
もっと多くの騎士に、たとえば十万とか、百万もの大軍があの足音を響かせながら追いかけてきたら、トラウマになってしまうのかもしれない。
全部僕の憶測だ。
でも、ライムの手はまだ少し震えていた。
その手を優しく握る。
「……カインさん?」
「一緒に帰ろうか」
「………………。はい!」




