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フードファイターライム再び

「もう勘弁してくださいお客様!」


 無限に食べ続けるライムの足下に店主が土下座していた。

 テーブルにはすでに数え切れないほどのお皿が積み上げられていた。


 ライムは運ばれてきた山盛りの焼き肉を一口で食べると、足下の店主に向けて首を傾げた。


「かんべん、ってなんですか?」


「それは……もう許してくださいという意味です!」


「ゆるす?」


「これ以上食べられたら、うちの食材が底をついてしまいます!」


 心からの悲痛な叫びだった。

 体裁を取り繕う余裕もないみたいだ。

 その叫びに対して、ライムは率直な疑問を告げる。


「でもお腹いっぱいになるまで食べていいんですよね?」


 非情な宣告に店主は顔を青くした。


 ライムにとっては脅すようなつもりはなかったはず。

 好きなだけ食べてもいいと言われたのにもうやめてほしいと言われたから、その矛盾が気になっただけなんだ。

 だからやめてくれと言われれば素直にやめるだろう。

 だけど、店内にいるのは僕たちだけではなかった。


「そうだそうだ! 約束を違えるなんてそれでも商売人か!」

「いまさらやめてくれなんてそいつぁ筋が通らねえんじゃねえのか!?」


 ライムの周りにはすでに多くのお客さんが集まっていた。

 やいやいと好き勝手にヤジを飛ばしている。


 大食いの美少女新チャンピオンが大食いチャレンジをすると宣伝したのは他でもないここの店主だ。

 ライムを看板にしてお客さんを呼び込むつもりだったんだろう。

 その目論見は見事に成功し、ライムの食べっぷりが評判を呼んで想像以上のお客さんが店内に詰めかけていた。

 店の外にまで立ち見客がいるくらいだ。

 だけど誤算だったのは、ライムの胃袋が底なしだってことだろう。


 というかライムにはたぶん人間で言うところの胃がないんだと思う。

 なにしろその正体はスライムだから、体内に取り込んだものは何でも消化吸収してしまうんだ。

 石でも砂でも食べられると言っていたくらいだしね。

 焼いて美味しく味付けまでされたお肉なんて、ライムの体内に入れば一瞬で消化されてしまう。


 美味しい美味しいと笑顔で食べ続けるライムと、その光景を絶望の表情で見つめる店主。

 前チャンピオンが、店主の肩を慰めるようにたたいた。


「だから言っただろ。あの子はマジでヤベーんだって」


「く……っ」


 店主が歯噛みする。

 本音としてはライムにはもうやめて欲しいんだろうけど、店内に詰めかけたお客さんたちがそれを許さない。

 下手をすれば暴動まであり得る状況だった。

 こうなってしまったらもう、今さら後には引けないよね。


「……ええい、追加だ! 追加の皿を持ってこい!」


「で、ですが店長! これ以上は本当に……」


 慌てる店員に、店長は開き直って叫んだ。


「どうせもう大赤字だ! どうせ落ちるなら地獄の底まで落ちてやろうじゃねえか!」


「いいぞ、よくいった!」

「店長カッコいいー!」


 周りの野次馬がはやし立てる。

 お酒も入っているため、騒ぎはいっそう加速していた。


 そんな中で巨大な肉を載せた追加の皿が運ばれてくる。

 そのあまりの巨大さに周囲の人たちがざわめいた。

 ついさっき来たばかりの人も、はじめから見ている人も、一様に驚いている。

 あれ一つで僕なら四人前はあるような量だからね。


「ふわあ……! おっきいおにくです!!」


 ライムが今日一番の笑みを見せる。

 テーブルに置かれたお肉を両手でつかむと、大きな口で一気にかぶりついた。

 ご飯は素手で食べたらダメだよと教えたんだけど、すっかり忘れてしまったみたいだね。


 口いっぱいに頬張ったお肉を三口噛んで飲み込む。

 とたんに喜びを爆発させるような表情になった。


「んん~~~! 噛むたびに肉汁があふれてきて美味しいです~! それに焼き加減も絶妙で、香ばしくって、いくらでも食べれちゃいます~! おかわりくださーい!」


 無情の宣告に観客はさらにわき上がる。

 店主はもう乾いた笑いしか出ないみたいだった。


 それからもライムは食べ続け、そしてついに……。


「申し訳ありません……。もう当店の在庫は空でございます……」


 店主の絞り出すような声が響いた。

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