おなかいっぱいになるまで食べていいんですか?
「あの子は新チャンピオンだぞ! 俺なんかよりもはるかに強い。見た目にだまされるな!」
「わかってるよ。お前が負けるほどの相手なんだろう? もちろん赤字は覚悟さ。だけどあんなにかわいい子が、お前も負けるほどの量を食べ尽くす……。いい宣伝になるとは思わないか?」
「いいや、わかってない。全然わかってない。あの子の大食いはそういうレベルじゃない。店の食材が全部食べ尽くされるぞ!」
チャンピオンは真剣に忠告していたようだったけど、店主は笑って聞き流していた。
「まさか冗談だろう。10日は営業できるだけの在庫を用意してあるんだぞ。それを一人で食べ尽くすなんて、お前にだって無理だろう?」
「もちろん無理だ。俺にはな」
チャンピオンと店主がかみ合わない会話を繰り広げるあいだ、ライムは示された看板に釘付けとなっていた。
「たべ、ほうだい……?」
なにかを思い出すようにその言葉をつぶやく。
「その魅力的な言葉には聞き覚えがあるような……」
「ライムがお腹いっぱいになるまでいくらでも食べていいってことだよ」
「……はっ! 思い出しました! あのときの夢のようなお肉祭り……!」
確かにあのとき、大食い大会が行われていたのはお祭りの中でのことだったけど、ライムの中で二つは合体してしまったようだった。
「またお肉を全部食べてもいいんですか……!?」
キラキラと瞳を輝かせる。
口の端からはすでによだれがこぼれ始めていて、早くも臨戦態勢に入っているみたいだった。
ライムの大食いを知っている僕としては、店の経営が心配なので食べてもいいよとはいえない。
だけど、店主は即座にうなずいてしまった。
「もちろんだよ。君みたいなかわいい子なら大歓迎さ」
「ほんとうですか? やったー!」
両手をあげて喜ぶライムと、歓迎のポーズを取る店主。
そのとなりではチャンピオンが天を仰いでいた。
「いいか、俺は止めたからな。恨むなら自分を恨めよ」
そうしてライムの大食いチャレンジが始まった。
制限時間内ならいくらでもお代わりができるといういつものルールだ。
そしてその結果は言うまでもなく……。
「もう勘弁してくださいお客様!」
無限に食べ続けるライムの足下で店主が土下座していた。




