王都での宿屋探し
「うわー、すっっっごい人ですね!」
ライムが驚きの声を上げる。
冒険者協会を出た僕たちは、王都の中心街へとやってきた。
ここは王都の中でも最もにぎわっている場所だ。
人の多さはこれまでの場所の比じゃない。
王都に慣れはじめていたライムでも、さすがに目を丸くしていた。
「ここは王都の中心街だからね。それにそろそろ夕食時だから、なおさら混んでるんだ」
あちこちから客引きの声が聞こえてくるし、それに答えるお客さんの声や会話なんかも混ざって、混沌とした雑踏があたりに広がっていた。
「まずは宿屋を探そうか」
「宿屋って確かあれですよね。カインさんの隠れ家みたいな奴ですよね」
「うーん。間違ってるわけじゃないけど……」
そういえば前に宿屋のことを教えてあげたときも、そんな感じの理解の仕方だったっけ。
お金を払って寝泊まりする部屋を借りる、という考え方がライムの中にはないみたいなんだよね。
今夜の寝る場所を探す、という点ではあってるからまあいいのかな。
王都の中心街は人が多い。
だからお店も多くなる。
旅人向けの宿屋もあちこちに建っているんだ。
たいていの場合は宿屋の方が多いから満室になることはない。
だけどなにかのイベントが開催されるとかで、一時的にどこの宿屋も満室になってしまうことはあるんだ。
だから早めに宿は確保しておきたい。
そう思ってさっそく宿屋に来たんだけど……。
「もう満室なんですか?」
とある宿屋で告げられた事実に、僕は思わず声を上げてしまった。
宿の女将さんが申し訳なさそうな顔になる。
「ええ、申し訳ありません。いつもは空きがあるんですけど、もうすぐ武道大会が開催されるため満室なんですよ」
「そうですか……。明日以降なら空きは出来そうですか?」
「それが……実は十日先まですべて埋まってしまっているんです」
「十日先まで……!」
「一応キャンセル待ちもできるのですが、それも三十名様以上の先約がある状態でして……」
「そうですか……」
思わずうなだれてしまう。
そんな先まで埋まっているとなると、空きを待つのも難しそうだ。
一応キャンセル待ちの予約をしたけれど、たぶん回ってくることはなさそうかな。
そしてここがこんな状態ということは……。
「どこも満室かあ……」
他の宿屋を回ってみたけど、どこも状況は同じだった。
どうやら悪い予感が当たってしまったみたいだ。
普段王都から離れたところにいると、ここの情報はなかなか入ってこない。
だからイベントの日程とかも把握できないんだ。
それでも偶然かぶるってことはあんまりないんだけど、今回は運悪く重なってしまったみたいだ。
「困ったなあ……」
王都に何日滞在することになるかわからないのに、初日からこれだと先が思いやられる。
「カインさん……」
僕の落胆を感じ取ったのか、ライムが不安そうに表情を曇らせる。
いけないいけない。
ライムにとっては初めての街なんだから、頼れるのは僕しかいない。
なのにその僕が不安そうにしていたら、ライムに余計な心配をかけてしまう。
「うん。大丈夫だよライム。ちょっと予定がずれちゃうけど、先にご飯を食べようか」
不安を払うように、努めて明るくいう。
ライムもすぐに表情を輝かせた。
「ご飯ですか! どんな美味しいものが食べられるのか楽しみです!」
よかった。
いつものライムに戻ったみたいだ。
宿屋が取れなかったのは誤算だったけど、他に方法がないわけじゃない。
慌てて行動してもいい結果は生まれないからね。
まずはご飯を食べて気持ちを落ち着かせることにしよう。




