これじゃセーラも大変ねえ
意味ありげな笑みを浮かべたまま、職員のお姉さんは僕の顔を興味深そうに見つめていた。
「セーラから話には何度も聞いていたので、どんな人か気になっていたんです。どんな依頼でもこなす凄腕の冒険者だそうですね」
「凄腕はさすがに言い過ぎだと思いますけど……。それにどんな依頼でもなんてことはないです。僕は僕にできることしかできませんし」
薬草の採取とか、素材の調達とか、アイテムの合成とか、基本的に僕が受けるクエストはそういったものばかりだ。
戦いになったらなにもできないからね。
「話通り謙虚な方なんですね。それに、ちょっとかわいい顔もしていますし。頼りなさそうな感じが母性本能を刺激しつつも、やるべき時はきっちりとやると。なるほどなるほど。確かにセーラの好みにドストライクだなあ」
「えっと、あの……?」
「カインさんはわたしのです! 誘惑するなら許さないですよ!」
ライムが妙な対抗意識を燃やして僕とお姉さんのあいだに割り込んでくる。
お姉さんはなぜだかより笑顔になった。
「あら、あなたがライムちゃんね。確かにかわいいわね」
「むっ」
ライムの表情が少しだけ和らぐ。
どうやらかわいいといわれてちょっとうれしかったみたいだ。
「あなたみたいな素直でかわいい女の子の方が男の子にもモテるでしょうし」
「もてる?」
「男の子から好きになってもらえるって意味よ」
「……カインさんからもですか?」
「もちろんよ。男なんて単純だから、ライムちゃんみたいな子はみんな好きになるのよ」
「……えへへ。カインさん、この人いい人ですね!」
振り向いたライムは満面の笑みになっていた。
たまにライムはチョロすぎると思うことがあるんだけど、大丈夫かな。
ライムが満面の笑みのまま僕に近づいてくる。
「ねえねえカインさん。わたしのこと好きですか?」
「ええっ!? いや、それは、えっと……」
直球で聞かれて困ってしまう。
たじろぐ僕だったけど、ライムの期待に満ちたまなざしはまっすぐに向けられていた。
僕の答えを信じて疑っていない目だ。
とても誤魔化して逃げられる雰囲気じゃなかった。
「う、うん。もちろんそうだよ」
好きだよ、の一言でさえ口にすることは恥ずかし過ぎてできなかった。
うう……。さすがに自分でもちょっと情けなくなってくる……。
だけどライムはそれで十分みたいだった。
「えへへへへ~。わたしもカインさんのことが大好きです~」
デレデレになってちょっと溶けかけた顔で抱きついてくる。
さすがにこの顔を誰かに見られるわけにはいかないため、隠すようにライムを抱きしめた。
うう……。この体勢は周囲に誤解されるってさすがの僕にもわかるよ……。
「あらあら、ふふふ。こんなに強力なライバルがいたんじゃセーラも大変ねえ。そりゃこっちに来る余裕なんてないか」
お姉さんの楽しそうなつぶやき声が聞こえてきた。