王都からの遠征団
ライムと二人で、袋いっぱいになるまで山頂の薬草を集めた。
これだけあれば指定された量の薬草を用意できるだろう。
「これだけあれば大丈夫かな。それじゃあ帰ろうか」
「はい!」
元気よく返事をするライムと一緒に山道を戻ろうとする。
その直後に、僕は足を止めた。
ライムが不思議そうな表情を向ける。
「どうしたんですか」
「誰かくるみたいだ」
ライムが遠くを見るように瞳の上に手をかざしたり、くんくんと鼻を鳴らしたりしている。
「わたしにはまだわからないです」
「道の先から物音が聞こえてくるんだ」
「むー。どうも人間の姿だとうまく感知できないですね。元の姿なら山ひとつ超えた先の足音でも聞き取れるんですけど」
姿だけじゃなくて、器官も人間に似せてるのかな。
ライムには聞こえてないみたいだけど、僕はレベル1で戦闘が苦手だから、こういった特技は鍛えてあるんだ。
「けっこう大人数みたいだから、道の脇によけようか」
近づいてくる複数の足音に加えて、ひずめの音も聞こえてくる。さらには鎧同士がぶつかる金属音まで響いてきた。
「これは……王都の騎士団? どうしてこんなところに……」
王都は森をひとつ超えた先にある。
わざわざこんなところにくるなんて考えられない。
「………………」
「ライム?」
ライムは僕の背後に隠れると、ぎゅっと服をつかんだ。
その手はかすかに震えている。
過去になにがあったのかは、想像するしかない。
でもきっと思い出したくないことだろう。
だから僕はなにも聞かず、ライムをかばったまま道の脇へと移動した。
やがて道の先に、坂を上る騎士団が見えてきた。
白銀の鎧に身を固めた騎士が馬に乗って坂を上ってくる。
金属のこすれあう鈍い音と、足並みのそろった靴音が規則正しく響いていた。
その数は数十人……もしかしたら百人以上はいそうだった。
「これは……」
思わず絶句してしまう。
これほどの大人数となると、ただ事ではない。
そこらの盗賊を退治する程度なら、これほどの大軍は必要ないはずだし。
しかもこんな遠くにまで遠征するなんて考えられない。
よっぽどの緊急事態なんだろう。
それこそ、たとえば凶悪な指名手配犯が現れたとか、SS級の魔獣が出現したとか。
あるいは、幻のレアモンスターが見つかったとか。
意識しない内に、ライムを守るように一歩前に出ていた。
向こうはもう僕の存在に気がついている。
これだけの騎士団を相手に戦いになったら、勝つのはもちろん、逃げることだって難しい。
騎士団は、規則正しい足音を響かせながら僕の前を通り過ぎようとする。
先頭を歩くひときわ大きい騎士の人が僕の正面に来たとき、突然に停止した。
「……っ!」
体が緊張して固くなる。
ライムは僕の服を全力で握りしめ、すっかり縮こまっていた。
鎧姿の騎士は僕の正面まで来ると、兜を脱いで一礼した。
「驚かせてしまったならすまない。私は王都騎士団団長、アルフォードという」




