冒険者協会本部
王都に到着した僕たちは、まずは冒険者協会に向かうことにした。
今回の目的は「ゴールデンスライムの涙」を依頼した人に会って話を聞くことだからね。
僕たちの町ではセーラのクエスト屋がクエストをまとめているけど、そのクエストは冒険者協会から依頼されたものなんだ。
セーラから受けたクエストも、元は冒険者協会からセーラへと依頼されたもの。
だから詳細を聞くためには冒険者協会に向かう必要があるんだ。
冒険者協会は王都の中心近くにある。
お城の周りに位置する、王都でもっとも栄えている一角だ。
やがて着いた場所に建っていたのは、ものすごく立派な建物だった。
「すっごく大きな家ですね」
ライムが見上げながら感想を述べる。
「ここは家じゃなくて、王都中の冒険者が集まる場所だからね。とりあえず入ろうか」
両開きの扉は解放されっぱなしになっている。
何人も出入りするから、最初から開きっぱなしになっているんだ。
中は大きな空間になっていて、あちこちで冒険者たちが話し合っていた。
「強そうな人間がいますね」
「冒険者が集まる場所だからね。受注したクエストを攻略するための仲間を集めたり、傭兵として自分を雇ってくれる人を探したりしてるんだよ」
王都には、クエストを扱う場所は他にもあるけど、やっぱり冒険者協会に一番人が集まるんだ。
そう答えてから、ふと気がついた。
「ライムから見ても強そうな人っているの?」
ライムの正体はゴールデンスライムだ。
その強さは人間とは比較にならない。
なにしろドラゴンでさえパンチ一発で倒しちゃうくらいだからね。
ただの人間ならまったく歯が立たないはず。
「そうですね。人間にしては強そうなのが何人かいます」
そう答えてから、にっこりと笑顔になった。
「もちろんわたしの方が何倍も強いですけど!」
「そ、そう。それは頼もしいね」
近くにいた冒険者の何人かがライムに剣呑な視線を向けたけど、それ以上なにかをいうことはなかった。
僕は内心でほっとため息をつきながら、その場を離れる。
冒険者は血の気の多い人がたくさんいるからね。
自分より強いといわれて怒る人もいるかもしれない。
広間の奥は一面が大きな壁になっていて、クエストを張り出すクエストボードがかけられていた。
それだけたくさんの依頼があるってことだ。
もちろんそのすべてを一つずつ確認するのは大変だ。
だから近くには冒険者協会の職員さんが待機している。
その一人に僕は話しかけた。
「あの、すいません」
「はいなんでしょうか」
職員のお姉さんがにこやかに対応してくれる。
なぜかとなりのライムがムッとした気がするけど、今は気にしないでおこう……。
「クエストの依頼を受けてきたんですけど、詳細を確認しようと思いまして。これが紹介状です」
「ありがとうございます。確認させてもらいますね。
……ああ、なるほど。このクエストですか。実はこのクエストですが、誰でも受注できるわけではないんです」
「そうなんですか?」
「なにしろ依頼の物が物ですから」
なるほど。
確かにそうだ。
ゴールデンスライムを見つけるだけでも大変なのに、その涙となるとかなり難しい。
僕だってライムがいなかったら、このクエストを受けようなんて思わなかったと思うし。
「受注の条件として、依頼人の方から、ある程度の実力を示すことを条件とされています。
このクエスト自体、誰にでも公開しているわけではないので、このクエストの存在を知っているというだけでもそれなりに実力があることの証明にはなるのですが」
「その実力というのはどうやって示せばいいんでしょうか」
実力を見せろ、なんていわれても意外に難しい。
試験として特定のクエストをクリアしてみせろ、なんてことはよくあるけど、戦って証明しろとかだったら困ってしまう。
なにしろ僕はレベル1だからね。
困る僕のとなりで、ライムがぐっと両手を握りしめた。
「こう見えてわたしは超強いんですよ!」
ライムは真面目にいってるんだろうけど、職員のお姉さんは冗談と受け取ったみたいで、朗らかな笑みを浮かべた。
「まあそうなのですね。でも今回は必要ありません」
「ではどうすればいいですか」
実力を証明する手段は多くない。
いったいどうするんだろうと思っていたら、職員のお姉さんはとても簡単な解決法を提案してくれた。
「アーストの町から来られたんですよね? それでは冒険者カードを見せてもらえますか」
「………………はい」
いわれてみれば確かにそれが一番簡単だ。
なにしろカードを見ればそこにレベルが記されているんだから、実力はすぐにわかる。
そして僕はレベル1でスキルなんて1つもない。
こんな冒険者カードを見せたら、依頼を断られるのは確実だ。
ライムにいたっては、正体を隠さなければならないため、カード自体を持っていない。
かといって今さら誤魔化す方法も思いつかない。
僕は観念して冒険者カードを差し出した。




