旅の目的
僕たちは今、王都に向かう馬車に乗っていた。
ライムとエルは観光気分だったけど、もちろん目的は別にある。
それは、セーラから受けたクエスト「ゴールデンスライムの涙」を依頼した人に会いに行くためだ。
涙自体は簡単に手に入る。
なにしろライムが、そのゴールンデンスライムが人間に擬態した姿なんだから。
でも王都に行く目的はそれを届けるためじゃない。
ゴールデンスライムといえば、目撃情報だけでも十年に一度あるかないかといったレベルの超レアモンスター。
本当に涙を持って行ったら、いったいどうやって手に入れたんだって大騒ぎになっちゃうからね。
「わたしの涙が必要なのならいつでも出しますけど」
ライムはそういってくれたけど、さすがにそれは遠慮しておくことにした。
だって、試すためにはライムを泣かせないといけないんだから。
そんなひどいことできるわけないよね。
「わたし、カインさんになら、どんなにひどいことをされてもガマンできます!」
「ガマンしたら涙が出ないから結局ダメじゃないかな」
「ううっ、確かにそうでした……」
しょんぼりと落ち込むライム。
「ありがとう、でも大丈夫だよ。たぶん依頼人は、『ゴールデンスライムの涙』が欲しいわけじゃないと思うんだ」
「えっ、でも頼まれたんですよね? どういうことですか?」
「ゴールデンスライムについてはわかっていないことが多いけど、涙に特別な効果があるという話も聞いたことがない。
だからこれを依頼した人には、別の目的があるんじゃないかと思うんだ」
ゴールデンスライムの涙が欲しいなんていえば、嫌でも人目を引くからね。
そうやって注目を集めてから、なにか別の目的を達成する。
それが狙いなんじゃないかと思うんだ。
「まあ実際に依頼を受けるかどうかは別にして、ゴールデンスライムを探している人がいるのなら、その情報は調べておく必要があるからね」
「そうなの?」
尋ねてきたのはエルだ。
「依頼人は、もしかしたらライムのことに気が付いてゴールデンスライムを探しているのかもしれないから」
ここまで人間そっくりに擬態できると知ってる人はいないだろうけど、念のために調べたほうがいい。
ゴールデンスライムの涙なんて聞いたこともないような物の依頼を急に出したのも、そういう裏があってのことかもしれない。
もちろん、本当に涙を求めている可能性だってある。
僕が知らないだけで、涙には特別が効能があるのかもしれないし。
それならそれで何の問題もない。
ライムに危険が及ぶ心配がないとわかるからね。
「だからそのあたりのところを確認したいんだ」
気がつくと、ライムがキラキラとした目で僕を見つめていた。
「ん? どうしたの?」
「やっぱりカインさん大好きです!」
「うわっ!」
いきなり僕に抱きついてくる。
「ど、どうしたのいきなり?」
聞いてみたけどライムは僕に力一杯抱きついてくるだけだった。
困惑する僕に向けて、エルが微笑を浮かべる。
「ふふ、ボクにはわかったよ。つまり今回の旅は、ライムのために行くってことだよね」
「まあ、そうなる、かな……」
いわれてから気がついた。
僕にとっては当たり前のことだったけど、ライムにはそれがうれしかったんだ。
そんなライムが急にかわいくみえてくる。
もちろんライムは最初からかわいいんだけど、急に愛しさがこみ上げてきたというか……。
しがみつくライムを抱きしめた方がいいのか腕をさまよわせながら迷っていると、エルがさらに言葉を続けた。
「どうしてボクにもわかったのかというとね、キミがライムのためを思ってしたんだということがわかったとき、ボクの中にそれをうらやむような気持ちがあったからなんだ」
薄い微笑を浮かべたまま、体を乗り出すようにして僕に顔を近づける。
「キミたち二人を見ているとボクの胸のあたりがモヤモヤするんだ。特にキミとライムがとても仲良さそうにしているのを見ると。これってどうしてなのかな?」
「いや、それは、えっと……」
どう答えたらいいのかわからない。
というか、ライムの抱きつく力が急に強くなった気がするんだけど……。
エルの視線とライムの腕に挟まれながら、馬車がゴトゴトと音を立てながら進んでいった。




