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王都へ出発

「おうカイン、馬車が直ったらしいから、今日の昼には出発するぞ」


「わかりました。ありがとうございます」


 御者のおじさんが教えてくれたので、僕はうなずいて答えた。

 この町は王都から離れた場所にあるから、王都へ向かう馬車は一台しかないんだよね。

 でもその唯一の馬車が壊れちゃったから、この町で修理してたんだ。

 ようやく直ったみたいでよかったよ。


 ちなみに馬車の修理は、町一番の鍛冶屋であるスミスさんが行っていた。

 修理が終わりそうな時期はスミスさんに聞いて知っていたから、すでに準備は整えてある。


「ライム、エル。予定通り出発できそうだからいこうか」


 家に戻って待機していた二人に声をかけると、二人ともすぐに立ち上がった。


「カインさんとお出かけですね! 楽しみです!」


「王都ってここよりもさらにいっぱい人間が住んでるところなんだよね? 楽しみだな」



 そういうわけで僕らは今、王都に向かう馬車の中にいた。

 王都に向かうといっても直接行くわけじゃなくて、まずはサイドタウンに向かい、そこから王都に向けて移動するんだ。

 約七日の旅になる。


 馬車には僕らの他にも何人か乗っていた。

 馬車はそれほど大きくないから、人数が多くなれば必然的に乗客の間隔は狭くなる。

 僕のとなりに座るライムもぴったりとくっついてきていた。

 ちょっと必要以上にくっつき過ぎてる気もするけど……。

 ライムはニコニコと上機嫌な笑みを浮かべている、と思ったら、ライムとは反対側から僕にくっついてくる女の子に鋭い視線を向けた。


「せっかくカインさんとお出かけなのに、なんでドラゴンも一緒についてくるんですか」


「ボクもその王都って所に行ってみたいんだ。この馬車に乗っていれば着くんだよね?」


「うん、そうだよ」


「ドラゴンは一人で行けばいいんです!」


「もちろん飛んでいけるけど、それだと他の人間がまた驚いちゃうし。それにせっかくだから人間と同じ方法で向かいたいんだ。今まではどこに行くにも一人だったけど、今はこうしてキミたちと一緒に旅ができるなんて夢みたいだよ」


 そういってエルが静かな笑みを見せる。

 エルの正体はエルダードラゴンで、ライムと同じように人間の姿をしている。

 でも人化の術ができるようになったのはつい最近のことなんだ。


 エルは人間が大好きだったけど、ドラゴンの姿のままだと近づくだけで怖がられたり、襲撃にきたと思われて攻撃されたりしてきた。

 それにエルダードラゴンは世界でも二匹しかおらず、もう一匹は竜の里と呼ばれる場所に隠遁している。

 だから外に出るときはエルはずっと一人だったみたいなんだ。


 一人でいることの寂しさは僕も、そしてライムもよく知っている。

 ライムの鋭い視線が少しだけやわらいだ。


「……そういうことなら仕方ないですね。一緒に来ることを許してあげます」


「うん、ありがとう」


「でもカインさんはあげませんからね!」


「もちろんだよ。キミたちは夫婦なんでしょ? 人間は他の夫婦から雄を取ったりしないんでしょ。ボクだって人間のことを勉強したから知ってるんだよ。ボクは人間の交尾がしたいだけだから、カインはライムにあげるよ」


 エルがどことなく自慢げに答える。

 僕たちは別に夫婦じゃないんだけど……。

 それにエルは前にも交尾が知りたいってたけど、今は交尾をしたいっていったような……?


「なんだエルは話の分かるドラゴンですね。もちろんわたしたちは夫婦ですから。ね、カインさん!」


「ああ、ええっと。それに関しては言いたいことがあるんだけどけど、とにかく二人とも、もう少しだけ声を小さくしてもらえるかな……」


 さっきもいったけど馬車の中は広くない。

 ライムとエルがくっついてきてるのは二人がそうしてるからだけど、他のお客さんだってすぐ目の前にいる。

 直接僕たちの方を見てくることはなかったけど、僕たちの会話が耳に入っているのは明らかで、ちらちらとこっちに視線を向けていた。


「ライムちゃんと毎日交尾しているだって……?」

「あのエルって子もずいぶんかわいいけど、なんでカインにあんなにくっついてるんだ……?」

「不倫か?」

「だけどあの様子だとライムちゃんも公認っぽいぞ」

「あとでセーラに言いつけてやろう……」


 ひそひそとした声が聞こえる。

 うう……。どうしてそこでセーラの名前が出てくるんだろう。

 ただでさえ最近は怒られることが多いのに……。

 王都に着いたらおみやげを買っておくことにしようかな。

 それで機嫌を直してくれればいいんだけど。


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