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お風呂屋さん6

 お風呂の中では色々あったけど、なんだかんだで僕たちは無事お風呂屋の入り口前で合流した。


「はわぁ~、きもちよかったですぅ~」


「うん、なかなか楽しい体験だったね」


 ライムとエルも喜んでくれたみたいだ。

 その横でセーラが少しだけ疲れた表情を見せていた。


「ライムちゃんが急にお風呂からいなくなったときは本当に驚いたわ……」


 ライムが配管を通って男湯に来たときは僕もびっくりしたけど、セーラから見たらいきなりいなくなったんだからそりゃ驚くよね。


「あはは、ごめんね。おかげで助かったよ」


「……まあ、ライムちゃんたちはお風呂なんて初めてだったんだし、しょうがないんだろうけど」


 なんだかんだいってセーラは面倒見がいいからね。

 やっぱりセーラに任せて正解だったよ。

 そう思っていたらなぜだかじろりと僕をにらんできた。


「ライムちゃんがそっちに行っているあいだ、変なことしなかったでしょうね?」


「えっ? べ、べつになにもしてないよ」


「ふうん……」


 本当のことをいったんだけど、セーラの追求するような視線は変わらないままだった。

 変なことはしてないよね。変なことは。

 ライムのためには必要なことだったし。


「その割には、戻ってきたときに『とっても気持ちよかったです』なんてうれしそうにいってたけど?」


「そ、それは、お風呂が気持ちよかったってことだと思うけど……」


 実際ライムも最初は、お風呂が気持ちよすぎてトロトロになってしまったので僕のところまできた、といってたし。

 なにもまちがってはいない。なにも。


「お風呂が気持ちよかった、ねえ」


 なのになぜだかセーラはまだ疑いのまなざしだった。

 うう……。なんでこんなに信用されてないんだろう。


「ちょっとライムちゃんに聞いてみましょうか。ねえライムちゃん、お風呂でカインと一緒になにしてたのか……」


「あっ、そうだ! お風呂上がりといえばやっぱり果実水だよね! みんなで一緒に飲もうか!」


 思わず大声を上げてしまう。

 美味しそうなものは見逃さないライムがすぐに振り返った。


「かじつすい、ってなんですか?」


「氷で冷やした果汁のことだよ。おじさん、果実水4つください」


「はいよ」


 受付のおじさんにお金を渡して、冷たい瓶を受け取った。

 それをライムとエルに渡す。


「うわっ、とても冷たいです」


 受け取ったライムが声を上げる。


「お風呂上がりの火照った体にはその冷たさが気持ちいいんだよ。それにライムはお風呂で少しのぼせてたから、冷たいものを飲んだ方がいいと思うし」


「そうなんですね、美味しそうです!」


「なるほど、人間の町にはこういうのもあるんだね」


 二人に渡したあと、セーラにも渡した。


「私の分もあるの?」


「もちろん。ライムたちの面倒を見てくれたからね。そのお礼だよ」


「そういうことなら遠慮なくもらっておくわ」


 セーラが受け取る横で、ライムが瓶の中身を一息で飲み干した。


「……ぷはー! 冷たくって甘くってすっごい美味しかったです!」


 一気に飲んでしまったみたいだ。

 さすが、いい飲みっぷりだね。


「うん、お湯であったまった体に冷たいものを摂取するから、よりおいしく感じるんだね」


 エルも冷静に分析している。

 でもその表情は静かに微笑をたたえていた。

 彼女なりに喜んでいるみたいだ。


 それにしてもお風呂に入った後に冷たいものを飲むなんて、最初に試した人はあまりの美味しさに驚いただろうね。




 お風呂屋さんを後にしながら僕たちは帰り路を歩いていた。


「すっごく楽しかったです! またみんなで来たいです!」


「そうだね。次開くのは十日後って言ってたから、その時にまた来ようか」


「今度はカインさんも一緒に入りましょうね」


「うん、それはできないから、その時はまたセーラに頼もうかな」


「えー、残念です」


 そんな話をしながら歩いていると、ライムがふと疑問を口にした。


「そういえばカインさん、ひとつ気になったことがあるんです」


「うん、どうしたの」


「カインさんに体を触ってもらうと気持ち良くなるんですが、セーラに体を洗ってもらっていた時は別に気持ち良くならなかったんです」


 ……え?


「どうしてでしょう?」


「えっと、それは……」


 そんなことを聞かれても僕に答えられるわけがない。


「あの、セーラ……」


「私にも全然まったくわからないわね。触られると気持ちよくなることなんて、カインさんは普段ライムちゃんになにをしてあげてるのかしら?」


 助けを求めたのに逆に聞かれてしまった。


「いや、別に僕も何をしてるというわけでは……」


「そういえばボクも同じだったよ」


 話を聞いていたエルも会話に参加してきた。


「ボクもこのあいだの夜みたいに気持ち良くならなかったな。人間は触る人によって気持ち良くなったりならなかったりするものなんだね」


 エルに悪気はなかったんだろう。

 それはわかる。

 人間が大好きだからこそ、そのちがいが知りたいだけなんだ。

 ただ……。


「………………ふーん、エルちゃんにも手を出してたんだ。そうなんだあ。へえー」


 セーラの瞳が果実水よりも冷たくなっていた。


「カインって案外見境ないみたいだけど、そのあたりについて少し話を聞かせてもらってもいいわよね?」


 いいわよね? と聞かれてはいるけど、もちろん拒否権なんてあるわけない。


「あっ、二人でお話しするんですか? それならわたしもしたいです!」


「ボクも興味があるから混ぜてもらっていいかな?」


「もちろん。ライムちゃんとエルちゃんにも話を聞きたいし。もちろんいいわよねカイン?」


「………………はい」


 そう言うしか選択肢はなかった。

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