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お風呂屋さん2

 ライムたちをセーラに任せたあと、僕は料金を払って男湯へと向かった。

 脱衣所も結構混んでいたけど、中はさらに混んでるね。

 やっぱり10日に一度くらいしか開店しないから、みんな集まってきてるみたいだ。

 入り口からみて手前に体を洗う場所がいくつも並んでいて、その奥にもうもうと湯気をくゆらせる大きな湯舟がある。


 まずは空いているスペースで体を洗う。

 お風呂はみんなで入るものだから、体をキレイにしてから入るのがマナーなんだよね。


 それにしてもずいぶん静かだなあ。

 静かといってもみんな無言なわけじゃなくて、お客さん同士で普通に話したり、水を流す音は響いている。

 むしろ活気づいていて騒がしい部類にはいるかも。

 ただ、そばにライムがいないからか、いつもより静かに感じるんだ。


 考えてみれば、ライムがそばにいない状況っていうのはずいぶん久しぶりかもしれない。

 なんだかんだでいつも一緒にいるからなあ。

 そう思っていたら、お風呂場内に大声が響き渡った。


「うわー! すっごいおおきなところですね!」


 ライムの声だ。

 なんにでも素直に反応するから、大きなお風呂にも純粋に感動したんだろう。

 公共の場所で大声を出すのはあまり褒められたことじゃないけど、町の人もライムの性格は知ってるはずだし、まあ少しくらいならほほえましく見てくれると思う。


 だからそれはいいんだけど。


 なぜか周囲の視線がチラチラと僕に向けられていた。

 どうして僕が注目されてるんだろう……。

 確かにライムとはいつも一緒にいるかもしれないけど、お風呂まで一緒に入るわけないんだし。

 なるべく気にしないようにして体を洗おうかな。

 すると……。


「カインさーん! お風呂すっごく気持ちいいですねーっ!」


 ライムの声が再び響き渡った。

 壁越しに話しかけてきたみたいだ。

 うう……。なんだかものすごく恥ずかしい……。


「おいカイン、ライムちゃんが呼んでるぞ」


 そばで体を洗っていた町の人が話しかけてくる。


「そんなこと言われても、答えるわけにもいかないし……」


「カインさーん?」


 幾分小さくなったライムの声が響く。

 どことなくざわついていたお客さんの声も今はすっかり静まり返っていて、それがかえって小さくなったライムの声を物悲しく響かせていた。

 聞いているだけで胸が締め付けられる。

 とはいえお風呂場で大声を出すのは、他のお客さんもいるからマナー違反だし……。


「カインさーん……」


 にじむ涙まで想像できるような声が響く。

 周囲の視線が僕に集中しているのをひしひしと感じた。

 このままずっと黙っているのは胸が痛い。

 仕方なく僕はとなりの女湯に向けて声を張り上げた。


「ちゃんと体を洗ってからお風呂に入るんだよー!」


 僕の声がお風呂場中に反響する。

 うう……。なんだかものすごく恥ずかしい……。

 ライムの声はすぐに返ってきた。


「はい! ありがとうございます!!」


 なんでお礼を言われたのかはよくわからないけど……。

 でも、満面の笑みが簡単に想像できるくらいの明るい声だった。




 やがて体を洗い終えたので、湯船に向かった。


「ふうぅ~~……」


 少し熱いくらいの温度が体の芯にまで伝わってくる。

 この瞬間こそがお風呂の醍醐味だよね。

 誰が最初に考えたのかわからないけど、お風呂を作った人は天才だと思う。


「ふわぁ~~、とっても気持ちいいです~~」


 となりの女湯からそんなライムの声が聞こえてきた。

 向こうもちょうど入ったところみたいだね。


「カインさんも一緒にはいりましょうよー!」


「い、一緒はダメだよ!」


 思わず大声で答えてしまう。

 おかげでまた周りの注目を集めてしまった。

 でも怒るような視線じゃなくて、どちらかというと温かく見守るというか、ニヤニヤと楽しそうに見ているというか……。


「じゃあわたしがそっちに行きますね!」


「ちょっと、だめよライムちゃん!」


 セーラの悲鳴のような声も響いてきた。

 向こうは向こうで大変そうだなあ。

 あとでセーラにはお礼をしないとね。

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