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お風呂屋さん1

 とある日の夕食後、食器を洗っている僕にエルが聞いてきた。


「町の中を歩いていたら、人間が集まってお湯の中に入ってるお店があったんだけど、あれはどういうお店なの?」


「なんですかそれ?」


 ライムも知らなかったようで一緒になって聞いてくる。


「いつもは閉まってて誰もいない店だったんだけど、今日はなぜか開いてて、人間が集まってたんだ」


「ああ、それはお風呂屋さんだね」


「おふろやさん?」


 エルが首を傾げる。


「お風呂っていうのは、ええとなんていったらいいのかな……温かいお湯につかって体を温めたり、洗ったりするんだけど……」


 なんとか説明しようとしてみたけど、エルもライムもピンときていないみたいだった。

 うーん、改まって説明しようとすると難しいね。


 ライムの正体はなんにでも擬態できるゴールデンスライムで、自分の体だけじゃなく服までその能力で作っている。 

 だから汚れてもそれを体内に吸収して外に排出するから、体を洗う必要はないみたいなんだよね。

 水浴びは気持ちいいから好きみたいだけど。


 エルも人化の術で人間の姿になったエルダードラゴンで、服はやっぱりそのときに作られたものみたいだったから、基本的には体を洗うってことは必要ないみたい。


「お風呂はたくさんの水を集めて、それを温めないといけないから、ぜいたくで何日かに一度しか開けないんだ。そういえばちょうど今日が開店日だったんだね。せっかくだしみんなで行こうか」


 言葉で説明するのは難しくても、直接行けばきっとすぐにわかるよね。


「カインさんとお出かけですか!? わーい、楽しみですー!」


「ボクも初めて見るものだったから興味があるな」


 そういうわけなので、僕たちは三人でお風呂屋さんに向かうことになった。




 お風呂屋さんは大量の水を熱する必要があるため、鍛冶屋が集まる町の一角に建てられている。

 大きな煙突が目印で、そこから大量の煙が上がっていたら、お湯を沸かしている合図なんだ。


 お風呂屋さんに近づくにつれて人の数も多くなってくる。

 みんなお風呂に入りに来たみたいだ。


 当然だけどお風呂屋さんは男湯と女湯に分かれている。

 さすがに一緒に入るわけにはいかないからね。

 入り口で左右に分かれていて、男性が右で、女性は左に入ることになっているんだ。

 男湯と書かれた方に僕が入ろうとすると、当然のようにライムとエルもついてきた。


「ちょ、ちょっと待って二人とも待って」


「なんですかカインさん?」


「お風呂屋さんではね、男女で別れて入るんだよ」


「?」


 ライムが首を傾げる。

 意味がよく分かってないみたいだ。


「ええとね、お風呂屋さんでは、僕とライムは一緒には入れないんだよ」


「ええっ!? なんでですか!」


「なんでっていわれても……」


「カインさん、わたしと一緒にいるのが嫌なんですか……?」


 ものすごく暗い表情で落ち込んだ。


「いや、そういうわけじゃないんだけど……」


「雄と雌が同じお湯の中に入ったらいけない理由はボクも知りたいな。人間はお湯に溶ける性質でもあるの?」 


「いや、そういうわけじゃなくて……、お風呂ではみんな裸になるから、男女で一緒に入るわけにはいかないでしょ」


「どうして?」

「どうしてですか?」


 エルとライムがそろって同じ疑問を口にした。

 二人とも人間の常識は通じないからなあ……。


 いくらライムとエルが気にしなくても、中のお客さんはそうはいかない。

 二人共ものすごい美少女だから、お風呂どころじゃなくなっちゃうよ。

 かといって二人の説得は難しそうだし、これじゃあ今日のお風呂は無理かな……。

 そう思っていたところに、見知った人影が近づいてきた。


「あんたたちこんなところでなにしてるの。お風呂に入るなら早く入りなさいよ」


「あ、セーラも来たんだね」


 声をかけてきたのはポニーテールが似合う女の子だった。


「セーラはよくお風呂に来るの?」


「そりゃもちろんよ。たまにしか入れないからね。女の子はみんな来るに決まってるじゃない」


 そういうものなのかな。


「ならちょうどよかった。ライムとエルもお風呂に入りたいらしいんだけど、初めてだからセーラが教えてあげてくれないかな」


「お風呂くらい入ればいいでしょう。教えることなんてなにもないと思うんだけど」


「そうなんだけど、どうしても僕と入りたいといってて……」


「あー……」


 セーラはライムたちの正体を知ってるので、納得してくれたみたいだ。


「そういうことならいいわよ。それじゃあ二人とも一緒に行きましょうか」


「セーラと一緒ですか? ほんとうはカインさんと一緒がいいんですけど……」


 チラチラと僕のことを恨めしそうに見てくるけど、やがてあきらめてくれた。


「セーラとのお風呂も楽しみなので、そうします」


「ボクもお風呂というのに興味があるから一緒にいくよ」


「お風呂は他のお客さんも一緒に入るから、ちゃんと私のいうことを聞くのよ」


「はーい」

「わかったよ」


 セーラに連れられて二人とも女湯へと入っていく。

 よかった。セーラが一緒なら二人の面倒も見てくれるはずだし、僕も安心して入れるよ。

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