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デイリークエスト3

「あ、セーラ、遊びに来てくれたんですね! うれしいです!」


 僕がセーラにことの説明をして何とか信じてもらえた頃、ふにゃふにゃんの状態から元に戻ったライムがセーラを見て声を上げた。


 ライムは、なぜだかセーラには他の女の子よりも懐いているみたいなんだよね。

 理由はわからないけど仲は良いみたいで、ときどき一人でも遊びに行っている。

 セーラは面倒見もいいし、なんだかんだで話も聞いてくれるから、ライムも話しやすいのかもしれないね。


「ライムちゃんも元気そうで何よりだわ」


「今日はどんなご用ですか?」


「ちょっと急ぎのクエストがあってね。カインに頼みにきたのよ」


「あ。急ぎだったんだ」


 その割にはさっきまでライムとなにをしていたのがずいぶん追求されたんだけど……。


「なにか問題でもある?」


「ううん。なんにもないよ」


「クエストも大事だけど、もっと大事なことだってあるでしょ?」


 なんにもないっていったのに結局怒られた……。

 なんでセーラは僕の考えてることがわかるんだろう。


「ええと、それでセーラ、今日はどんなクエストなの」


 セーラは普段はクエスト屋にいるけど、急なクエストがきた場合にはこうして直接依頼にくることもあるんだ。


「実はいくつかポーションを納品してほしいのよ。急ぎだから、ある分だけでかまわないんだけど……」


「ああ、やっぱりそうなんだ。ちょうど今完成したところだよ。はい、これだよね」


 僕はさっき作ったばかりのポーションをセーラに差し出した。

 受け取ったセーラはすごく驚いたみたいだった。


「頼んでないのによくわかったわね」


「前に渡したものがなくなる頃だから、そろそろかなって思ったんだ」


「さすがね。いつも仕事がはやくて助かるわ」


「今日はわたしもお手伝いしたんですよ!」


「ライムちゃんも作ってくれたの?」


 尋ねるセーラに、ライムが勢いよくうなずく。


「はい! カインさんに教えてもらいました!」


「ライムは一度教えただけで作れるようになってくれたから、だいぶ助かったよ」


「カインさんのお役に立ててよかったです。えへへ……」


 ほめられたライムが溶けるように表情をゆるめた。

 というかちょっと溶けてしまっている。

 普段は人前ならもっとしっかりしてるんだけど、今いるのはセーラだからね。

 セーラはライムの正体がスライムであることを知っているし、仲もいいみたいだから、気にしてないのかな。


「ご褒美にいっぱいナデナデしてもらったんです……」


「なでなで?」


「カインさんに頭をなでてもらうと、とても気持ちよくて、ほわーってなるんです」


「ふうん……」


「わたし、いっぱい頑張りましたよね。ねっ、カインさん?」


 なにかをお願いするような含みのある言い方でたずねてくる。


「そうだね。今日のライムはいっぱい手伝ってくれたね」


 そういってライムの頭をなでてあげる。

 ライムはすぐにフニャフニャになりはじめた。


「えへへぇ~、これ好きですぅ~」


 デレデレなライムと、その頭をなでる僕を、セーラがなにかもの言いたげな目で見つめている。


「カインは仕事を頑張ると頭をなでてあげるの?」


「え? まあ、そうだね。ご褒美というわけじゃないけど……」


「……そう。ところで、今日も私は仕事を頑張ってるわよね」


「うん、そうだね。こうしてわざわざ僕の家まで来てくれるし、セーラにはいつも助かってるよ」


「今日だけじゃなく、毎日、いつも、仕事を頑張ってると思わない?」


「そ、そうだね。クエスト屋は休みもないし、いつもすごいなって思うよ」


「……思うだけ?」


「えっ? それってどういう……」


「じー……」


「???」


 セーラが僕をじっと見つめてくるんだけど、いったいどういう意味なのかわからない。

 特に怒られるようなこともしてないと思うし……。


 なにがなんだかわからないでいると、ライムが、あっと声を上げた。


「もしかしてセーラもカインさんにナデナデしてもらいたいんですか?」


「……ッ!」


 セーラの表情がぴくっと動いた。

 これは図星の時の反応だ。


「そうなの?」


「べっ、別に、してもらいたいわけじゃないけど……」


 さっきまで僕を見つめていた視線を横にそらして、もごもごと小さな声でつぶやく。

 口では否定しているけど、つき合いの長い僕には、それが本音でないことはすぐにわかった。


「えっと、それじゃあ、ナデナデするよ?」


「す、するならさっさとすれば?」


 なんだかまだ怒っていたけど、やっぱり拒否はしなかった。

 セーラは嫌なことははっきり嫌というから、嫌がらないということはしてもいいってことだ。


 セーラの頭に手を乗せる。

 意外と小さいことにちょっとした驚きを感じながら、そのままゆっくりと左右に動かした。


「……んっ」


 さっきまで怒っていたセーラが急におとなしくなる。

 よくわからないけど耳まで赤いような……。


 セーラの頭は、ライムとは違った感触だった。

 うまくいえないけど、小さくて触り心地がいい。

 それに、ライムをなでているときはまた別の緊張感というか、気恥ずかしさみたいなものがある。

 しばらくなでているあいだ、セーラはずっと無言だった。




「とにかく、助かったわ。ありがとう」


 少し乱れた髪型を整えながら、セーラがすまし顔でお礼を言う。

 口調はまだ固いけど、機嫌はだいぶ良いみたいだ。


「いえいえ、どういたしまして。セーラにはいつもお世話になってるから、これくらいならいつでもいってよ」


「ん、そうするわ。ライムちゃんも手伝ってくれてありがとね」


「いいえ、セーラに喜んでもらえてよかったです!」


 満面の笑みを浮かべるライムに対し、セーラは微笑で答えると、ポーションを持って店に戻っていった。


 ところで、今さりげなく「そうするわ」っていわれたけど、もしかしてこれからもセーラの頭をなでてほしいってことなのかな。

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