デイリークエスト2
「わたしすごいですか?」
「うん、ほんとうにすごいよ」
「えへへ~」
ニコニコしながら、僕の目の前で妙に上目使いに見つめてくる。
なんだろう。なにかをしてほしそうに見えるけど。
上目遣いというよりは、なんだか頭を僕に向けているような。
そういえば前にも頭をなでてあげたことがあったっけ。
もしかしたらまたしてほしいのかも?
前みたいにライムの頭をなでる。
とたんにライムの表情がトロトロとした笑みに変わった。
「えへへ~……カインさんに頭ナデナデされるの、気持ちよくてすっごく好きです~……」
すっかり力の抜けた様子で、僕の体に寄りかかってきた。
顔だけじゃなく全身まで溶けちゃってるため、服なんかすっかり溶けてなくなってしまっている。
おかげで裸になってるんだけど、僕に寄り掛かっているおかげで背中しか見えない。
この状態で起こしたら逆に裸が見えちゃうから起こすわけにもいかないよね。
それにしても、ライムの髪は本当にサラサラで、触るだけでも心地いい。
ついついずっとなでていたくなっちゃって、このままでもいいかなー、なんて思っちゃうんだ。
「ふにゃあぁ~……」
もうすっかりライムは全身に力が入らなくなってるみたいだった。
こうしていると、なんだか懐いてきた猫をあやしてるみたいな気になってくる。
猫というにはちょっと大きすぎるけど。
しばらくそんな感じでいると、玄関のほうから声が聞こえてきた。
「カイン? いるんでしょ、はいるわよ」
セーラの声だった。
入っていいよ、といおうと思って、今の自分の状態に気が付く。
裸になって抱きつくライムと、それを抱き寄せてるみたいな体勢の僕。
こんなところを見られたら言い訳なんてできない。
「ちょ、ちょっと待ってセーラ! まだ部屋が散らかってるから!」
「なにいってるの。大掃除の後みたいにきれいに片付いてるじゃないの」
そういえば少し前に掃除をしたばっかりなんだった。
窓枠の溝に至るまでピカピカに磨き上げてある。ちりひとつない完璧な仕事をしたんだった。
ええと、他になにか言い訳を……。
焦るあいだにも足音は近づいてくる……!
「ちょっと頼みたいことがあるんだけ、ど……」
扉を開けたセーラが僕とライムを見て固まった。
「……カイン? いったいなにをしていたの?」
「ち、ちがうんだ! これは誤解で……!」
「誤解? まだなにもいってないけど?」
完全に信じていない冷め切った視線が僕を突き刺す。
「ほら、ライム、起きてって……!」
僕からいっても信じてもらえなさそうだから、ライムに説明してもらうしかない。
起そうと肩をゆすると、ライムがいやいやと首を振った。
「やぁだぁ~……、もっと気持ちいいことしてほしいですぅ~……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……こんな昼間から裸のライムちゃんとどんな気持ちいいことをしてたのか、もちろん説明してくれるわよね?」
セーラの目が完全に冷え切ってしまったので、僕はライムを起こすのをあきらめた。
こんなに気持ちよさそうに寝てるのを起こすなんてかわいそうだからね?




