買い物とお散歩デート4
せっかく蒸し器を買ったのでさっそく使うことにした。
準備をはじめた僕にめざとく気が付いたライムが様子を見に来る。
「今日のご飯はなんですか?」
「ライムのおかげでいい野菜も手に入ったし、お肉の野菜巻きにしようと思うんだ」
「なんだか美味しそうです。わたしにもお手伝いさせてください!」
「ありがとう。それじゃあ鍋に水を張って、火にかけておいてくれるかな?」
「わかりました!」
ライムが台所に向かって鍋を取ってくる。
井戸から汲んできた水を鍋に満たすと、火水晶を使って火をかけはじめた。
何度か料理の練習を一緒にしただけあって、これくらいならすぐにできるようになったんだ。
そのあいだに僕は食材の用意をすることにした。
肉に調味料をまぶしてよく染みこませ、買って来たばかりの新鮮な野菜で包んでいく。
戻ってきたライムが、僕の作業をニコニコと楽しそうに見つめている。
「これはなんですか?」
「肉を野菜で巻いたものだよ。これを蒸し器で蒸していくんだ」
「変わったお料理ですね」
「確かにそうかもしれないね」
食材を別の食材で包む、というのは、ありそうで意外と数は少なかったりするからね。
これまでも作ったことはなかったし。
いや、おにぎりはあったっけ? あれも包むという意味では同じになるのかな。
作った野菜巻きを蒸し器の中に並べ、ライムに用意してもらった鍋の上に置く。
沸騰した鍋からはもうもうと湯気が上がっていた。
その上に置くことで底に空いた穴から蒸気が入ってきて、中の物を蒸してくれるんだ。
あとはふたを閉じてこのまましばらく待つだけ。
食器などの用意を済ませているあいだに完成した。
ふたを開けると、熱い蒸気と共に豊かな香りが部屋いっぱいに広がる。
「ふわぁ~、おいしそうです~」
「エルがまだ来てないけど……、せっかくだから、できたてのうちに食べようか」
「カインさんのご飯を食べないなんて失礼なドラゴンです!」
「僕たちが帰る時間を教えてなかったからね、しかたないよ。それよりも食べようか」
どんな料理でも出来立てが一番美味しいからね。
ほかほかの野菜巻きを僕とライムのお皿に載せて、残りは鍋ごとテーブルの真ん中においた。
食べ終わったら新しいのを自分でとればいいからね。
「じゃあいただきます」
「いただきまーす!」
ライムがフォークを刺して、野菜巻きをさっそく持ち上げる。
「あっ! 熱いから気を付けて……」
僕がいうのとほぼ同時に、ライムが思いっきり噛みついた。
直後に悲鳴が響く。
「……! あふっ、あふいですっ!!」
「ああ、だから言ったのに。ほら水を飲んで」
「うう……。ありがほうほざいまふ……」
渡した水を口に含むライム。
それでもまだ熱いみたいで、舌を出してうーうーうなっていた。
「野菜の中には水分とか肉汁とかが閉じ込められてるから、そのまま食べると火傷しちゃうんだよ」
「そうだったんですね……」
「ゆっくり食べれば大丈夫だから」
「だって、カインさんの料理美味しいから、楽しみすぎて……」
今度は少し冷えるのを待ってから、恐る恐る口に運ぶ。
一口含んだ後、ライムが歓喜に目を見開いた。
「ん~~~~っ!」
声にならない声で喜びをあふれさせる。
「美味しいです! これものすごく美味しいです! 甘い野菜の中に熱々で香ばしいお肉があって!」
これは肉を野菜で巻いて、それを蒸しただけのものなんだけど、蒸し焼きにすることで野菜の甘みが引き出され、さらに溢れた肉汁と調味料が野菜の中に閉じ込められて混ざり合うから、ジューシーでとても美味しくなるんだ。
野菜の包みを開いた時の香りだけでもよだれが止まらなくなる。
ライムもものすごく気に入ったみたいだ。
「ふわあぁぁ……! せかいにはこんなものがあったなんて……! かくめい! これはかくめいです!」
なんだかずいぶん大げさだなあ。
でも喜んでくれたみたいでよかった。
せっかく作ったんだから、どうせなら喜んでほしいからね。
ライムがさっそく次の野菜巻きに手を伸ばす。
口にすると、さっきよりもさらに目を見開かせた。
「んん~~~っ! さっきと味がちがいますぅ~~~~! これも美味しいです!」
「それぞれ少しずつ味付けを変えてあるからね」
「そ、そんなことができるんですか!?」
「ひとつずつ包んで作るときに、味付けを変えるだけだからね」
どんなに美味しいものでもたくさん食べたら飽きちゃう。
だから少しずつ味付けを変えることで、飽きさせないように工夫したんだ。
ひとつずつ作るからこそできることだよね。
「はぁ~、すごいです~。やっぱりカインさんはてんさいです!」
「そこまでじゃないと思うけど……」
でも褒めてもらって悪い気はしない。
「今度はこっちを食べてみるといいよ」
「はい! もぐもぐ……。これはさっぱりしてて美味しいです!」
「口の中がさっぱりするから、そのあとに他のものを食べるともっとおいしく食べられるようになるんだよ」
「はわぁ~、ご飯を食べる手が止まらないです~」
ライムがうれしそうに次々と食べていく。
その食べっぷりを僕はずっと眺めていた。
いつのまにか僕とエルの分まで食べられちゃってたけど、全然かまわない。
ご飯ならまた作ればいいんだから。
それよりも、こんなに美味しそうに食べているライムを止めるなんてこと方ができるわけないよね。
「どれもこれも美味しすぎて幸せですー!」
「お代わりならいっぱいあるから、いくらでも食べてね」
「はい! いっぱい食べれて幸せです~!」
ライムの幸せいっぱいな笑顔を、僕はいつまでも見つめていた。




