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買い物とお散歩デート3

 お婆さんの店を出たあとは、他のお店に寄って食材や調合に必要なアイテムなどを補充していった。

 やがて町中にも人が増えてきて、買い物を終える頃には通りを歩く人も多くなってくる。

 そろそろ夕食時みたいだ。

 ライムがきょろきょろと周囲を見渡す。


「ずいぶん人が増えてきましたね」


「僕たち以外にも夕食の用意などで買い物に来た人が増えてきたみたいだね。よそ見しながら歩いていると他の人にぶつかっちゃうから気をつけてね」


「確かに人がいっぱいで迷子になっちゃいそうです。……うわわっ」


 言ったそばから、さっそくライムが人混みに流されていった。

 あわてて手を伸ばす。


「ほらライム、こっちだよ」


「は、はいっ」


 ライムの手を握ると、逃げるように人混みから離れた。


「大丈夫だった?」


「はい、ありがとうございます」


「とりあえず落ち着いたところに移動しようか」


 またはぐれたら困るので、手を引いたまま歩くことにした。

 そのあいだライムはずっと無言で、僕に手を引かれるままについてくる。

 素直についてくるのはいつものことだけど、いつも元気なライムが無言なのは珍しい。

 どうしたんだろうと思って振り返ると、うつむいたまま隠しきれない笑みを浮かべていた。


「えへへへへ……」


「どうしたの?」


「いえ、なんだかとっても、うれしいなっていいますか」


「?」


 なにがそんなにうれしいんだろうと思っていたら、町の人に話しかけられた。


「あらー、いつも仲がいいわね。これさっき買ったばかりのお野菜だけど、二人で食べてね」


「えっ? どうも、ありがとうございます……」


 いきなり野菜を渡されて驚く。

 他にも道行く人になぜだか妙に話しかけられて、やけに優しくしてもらえた。

 ここの町の人はみんな優しくていい人ばかりだけど、今日はずいぶん多い気がするなあ。


 八百屋さんにつくと、店主のおばちゃんがニヤニヤとした笑みを浮かべた。


「あいかわらず二人はお似合いのカップルね。子供はいつできるんだい」


「ええっ? いや、それは……」


 この人はそういう話題が好きなのでいつも返事に困ってしまう。

 ライムも不満そうに口を尖らせた。


「わたしはいつも子供が欲しいといってるのに、カインさんが作ってくれないんです」


 なんか僕が批判されてしまった。


「あらあら、まあまあ。そうなの。ライムちゃんから誘ってるのに、カインがねえ……」


「いや、えっと、まあ、それは確かにそうなんですけど……」


 なにか激しい誤解をされていそうな気がするんだけど、言ってることはなにひとつ間違ってないからなにもいえない。


 とにかくさっさと買い物を済ませてしまおう。


 野菜にも新鮮なものと、そうでないものがある。

 どうせなら美味しいものを食べてもらいたい。

 そう思っていい野菜を探していると、ライムが手を伸ばした。


「くんくん……。カインさん、これが美味しそうです!」


 そういって手にした野菜は、ちょうど僕が買おうとしていたものだった。


「すごい、よくわかったね」


「美味しそうな匂いがしたので!」


 嬉しそうに自慢するライム。

 八百屋のおばさんも驚いたようだった。


「あらあら、ライムちゃんは目利きだねえ。将来はいいお嫁さんになるよ」


「およめさん?」


「カインと結婚したらいい夫婦になりそうだねってことだよ」


「ええ~、やっぱりそう思いますか~」


「なあカイン、アンタもそう思うだろ?」


「いや、まあ、えっと、はあ……」


 なんと答えたらいいのかわからなくて、そんなことしか言えなかった。




 買い物を終えて家に戻る。

 人ごみもだいぶ少なくなってきたところで、ようやく僕はライムと手をつないだままだったことに気が付いた。

 そう言えばさっき八百屋さんで買い物もしてるときもずっと手を繋ぎっぱなしだったような……。

 これまでのあたたかな視線を意味に気がついて、今さら猛烈に恥ずかしくなってきた。


 僕とライムが一緒に住んでいることとかはもうすっかり町の人に知られちゃってるけど、こんなに堂々としたことなんてなかった。

 手をつないだまま町を歩くなんて、交際宣言してるようなものなんじゃないだろうか……?


 ま、まあ、もう家も近いし、人も少ないからはぐれる心配もないし、もう離してもいいよね?

 そう思って手を離した。


「あっ……」


 ライムが小さく声を漏らす。

 その寂しそうな声に、つい振り返ってしまった。


「ど、どうしたの?」


「いえ、その……もしカインさんがよろしければ、もう少し手をつないでくれませんか?」


「ええと、それは……」


 頼まれてしまったら断る理由も浮かばない。


「えっと、じゃあ……」


 手を伸ばすだけでも緊張してしまう。

 さっきまでずっとしていたはずのことなのに、意識しただけで急に恥ずかしくなってきた。

 なぜだかライムも表情を隠すようにうつむいている。

 手をつないでにぎりしめると、柔らかくて小さな手の感触で頭がいっぱいになった。

 そのまま無言で歩き出す。

 誰に見られてるわけでもないのに、緊張で足取りが固くなってしまう。

 となりのライムもずっと無言だったけど、口元はふにゃふにゃにゆるんでいた。


「……えへへ」


 うれしそうに笑う声は小さかったけど、つないだ手はぶんぶんと大きく振られている。

 家につくまでライムのうれしそうな笑みは変わらなかった。


 もちろん僕もずっと無言のままだった。

 うう……。なんでこんなに恥ずかしいんだろうか……。

 自分でも自分の気持ちの整理が付かないまま、僕たちは家への道を歩いていった。

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