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買い物とお散歩デート2

「今日は天気もよくてお散歩が楽しいですね!」


 となりを歩くライムが機嫌良く声を上げる。

 僕もうなずいて答えた。


「うん、そうだね。今日も晴れてよかったね」


 スミスさんの工房を出たあとは、町の中心部にやってきていた。

 といっても本当に散歩のために来たわけじゃないけど。

 このあたりはお店が集まっているため、買い物するならみんなここに来ることになるんだ。

 セーラのクエスト屋もここにある。

 まあ今日はセーラの店に用事があるわけじゃないんだけど。


「今日はこのあとお買い物なんでしたっけ?」


「うん。消耗品も少なくなってきたし、エルがきたから食料も少なくなってきたからね。この機会にまとめて買っておこうと思って」


「あのドラゴンがきたせいでカインさんが困ってる……やっぱり追い出すべき……」


 ライムが険しい表情を浮かべる。

 僕はまあまあとライムをなだめた。


「僕のために怒ってくれるのはうれしいけど、そんなこといわないであげてよ。行くところがなくて困ってるんだし。困ったときはお互い様だよ」


「うう……。カインさんがそういうなら、我慢します……」


 苦渋の表情を浮かべてながらうなずく。

 そんなにイヤなのかな……。




 最初に訪れたのは行きつけの小さなアイテムショップだった。


「こんにちわ」

「こんにちわー!」


 僕の声に続いて、ライムの挨拶が元気よく響く。


「おや、ライムちゃんいらっしゃい」


 店の奥にいたお婆さんが柔和な笑みでやってきた。

 ここのお婆さんはライムのことをすごく気に入ってるみたいで、足腰が弱くなってるのに、ライムの声が聞こえるとこうして来てくれるんだ。


「こんにちはおばあちゃん!」


「ライムちゃんはいつも元気だねえ」


「いつもお世話になります」


「カインもいらっしゃい」


「腰痛に効く薬も持ってきましたよ」


「いつもありがとうねえ。カインの薬はよく効くから助かってるよ」


「今回はわたしも一緒に作ったんですよ!」


「おや、ライムちゃんも作ってくれたのかい。ならいつも以上に効きそうだね。もしかしたら治っちゃうかもしれないねえ」


「そうだとうれしいです!」


「それじゃあ薬はここにおいておきますね。それと今日は水晶を買いに来ました」


「はいはい。たくさんそろえてあるから、ゆっくり見ていくといいよ」


 そう言い残すと、おばあさんが薬を持って店の奥に戻っていった。


 ここは火水晶とか水水晶とかのマジックアイテムを中心に売ってるんだ。

 火水晶とかは天然の鉱山で取れることもあるみたいだけど、ほとんどはクラフト関係のスキルを持っている人が人工で作り出している。


 火なら火の魔力を、水なら水の魔力を凝縮することで作れる。

 使うときもその魔力を消費するんだ。

 使うたびに少しずつ小さくなっていって、制作するときに込められた魔力を使い切ると水晶もなくなっちゃう。

 消耗品だから定期的にこうやって買いにくる必要があるんだ。


 僕が必要なものを選んでいるあいだ、ライムは店内を見て回っていた。

 火や水の水晶は僕もよく使うけど、ここには風水晶や土水晶といったものもある。

 天然で見つけることはほとんどないものだから、ライムも珍しいみたいだ。

 それにここは水晶類以外にも様々なものが置いてあるからね。

 見て回るだけでも楽しいから、ライムもお気に入りなんだ。


「カインさん、カインさん」


 僕の腕を引きながらライムが店内のアイテムを持ってくる。

 手にしていたのは丸い鍋だった。


「この鍋、底に穴が開いてるんです」


「穴が開いてる?」


 穴の開いた鍋なんてあったかな……。

 欠陥品を置くような店じゃないんだけど。


「これじゃあ全部こぼれちゃいますよね……。これはいったいなんなんですか?」


 不思議に思いながらライムが持ってきたものを受け取る。

 それは丸い鍋で、底にはライムがいうように小さな丸い穴がたくさん開いている。

 それを見てすぐに納得した。


「なるほどこれだったかあ」


「これはなんですか?」


「これはね、蒸し器だよ」


「むし、ですか……!?」


 ライムが怯えたように体を震わせる。そういえば虫が苦手なんだっけ。


「虫じゃなくて、蒸し器。料理をするための道具だよ」


「むしき、ですか……?」


 ライムはまだ警戒する目つきで蒸し器を見ている。


「これは沸騰させた水の上におくことで、蒸気が底の穴を通って鍋の中身を蒸してくれるんだ」


 野菜や肉を蒸したり、小麦を練った生地で包んだものもあると聞いたことがある。

 僕は食べたことも作ったこともないんだけど。


「料理ですか……!」


 ライムの目が急に輝きだす。


「あ、でも、虫を食べるわけじゃないですよね……?」


「もちろんだよ」


 恐る恐るといった様子でたずねてくるライムに、僕は苦笑しながら答えた。よっぽど嫌いなんだね。


「僕だって虫を食べたいわけじゃないからね」


「そうですか、よかったです!」


 ようやく満面の笑みを浮かべたライム。

 地域によっては虫を料理する場所もあることは黙っておいたほうがよさそうだね。


 それにしても、蒸し器かあ。

 これなら簡単でそれなりの量も作れるし、この機会に買ってもいいかも。

 エルも増えたことだし、まとめて一つの料理を作るよりも、個々で味付けを変えられるこういうもののほうがいいかもしれないしね。


「カインさんの料理美味しいから楽しみです!」


「ありがとう。ライムはいつも美味しそうに食べてくれるから、僕も作りがいがあるよ」


「えへへ~。わたしもカインさんが好きです~」


 ちょっと溶けかけたデレデレの笑みで答える。

 でも好きなのは僕の料理、だよね?


 そんな会話をする僕らを、戻ってきていたお婆さんがあたたかいまなざしで見つめていた。


「もうすっかり夫婦だねえ。昔の私とお爺さんを思い出すよ」

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