はじめてのおつかいクエスト
「カインさんとお出かけ楽しみです!」
クエスト屋を出たライムが、ウキウキとした様子で声を上げる。
「そんなに大したものじゃないけどね」
僕は苦笑しながらそんなことをいった。
実際セーラから受けたクエストは、近くの山の頂上に生える薬草を採取してくる、というものだ。
わかりやすくいえば山菜採りかな。
薬草といっても特別な草が生えてるというわけじゃない。
傷や病気に効く効能を持っているというだけだからね。
「それで、その薬草はどこにあるんですか」
「あの山の頂上にだけ生えてるんだよ」
僕たちの町からでも見える山だ。
街道沿いに進むだけですぐにたどり着ける。
途中に危険なモンスターもいないし、道も整備されてるから迷う心配もない。
だからこそ簡単な初心者向けとしてセーラが紹介してくれたんだ。
そのかわり誰でもできるクエストだから報酬は低いけどね。
僕たちは町をでると街道沿いに歩きはじめた。
この辺りは王都からも離れた場所にあるため、他に街道を歩いている人は全然見つからない。
「途中でモンスターともほとんど出会わないからレベル上げにもならない。だから不人気なクエストなんだ」
「じゃあどうして引き受けたんですか」
「僕みたいなレベル1の冒険者でもクリアできるからね。ライムも一緒だから危険なクエストはできないし。それに、クエストがあるってことは誰かが必要としてるってことだ。それならできる人がやってあげないと」
山頂の薬草は様々な薬効を持っているため、色々な使い道があるんだけど、お米と一緒に炊くことで消化も良くて風邪によく効くご飯になるんだ。
「依頼をした人も、きっと家族の誰かに食べさせたくて依頼したと思うんだ」
「やっぱりカインさんは優しいですね」
「そういうんじゃないよ。僕は僕にできることをやってるだけだから」
その上で、誰かの役に立てたらうれしい。
それだけなんだよ。
ライムと話しながら歩いていると、やがて周囲に木々が増えはじめ、道もなだらかな登りに変わってくる。
町から見えていた山が今は目の前にそびえていた。
「後はこの山を登るだけだ。いつもならもう少しかかるんだけど、思ったよりも早く着いたね」
もしかしたら、ライムと話していたからかも。
いつもは一人で歩いていたから長く感じていただけで、誰かと一緒に歩くと短く感じるものなのかもね。
「ここからもう少し歩くから、ちょっと休憩にする?」
「大丈夫です! これでも足腰には自信ありますし、場合によっては三日三晩逃げ続けたこともあるんですよ!」
確かにここまでの道でもライムは苦もなく僕についてきたし、今も疲れている様子はない。
むしろ僕よりも元気なくらいだ。
まあライムはいつだって元気だけど。
「それじゃあ行こうか。頂上まではまっすぐな道だよ」
「はい!」
山道も来たときと同じくらいの距離があるんだけど、ライムとたわいのない話をしている間に歩き終わってしまった。
坂を上った先に開けた空間がある。
それを見たライムが駆けだした。
「わー、すっごい景色ですね!」
周囲を見渡して歓声を上げる。
「この辺りは他に山もないからね。周囲の景色を一望できるんだ」
地平線の彼方から続く街道が僕たちの町まで伸び、そのまま反対側の地平線の彼方に消えていく。
遠くには深い森の木々が緑の海みたいにうねっていた。
「あそこを越えてさらに進むと王都があるんだ」
「王都っていうと、人間の偉い人が住んでるところなんですよね」
「まあ、そうだね」
苦笑しながら答える。
王様が住んでるところだからその言い方も間違ってはいないけど。
僕もあまり行ったことはないけど、王都はとても大きくて豪華な都市だ。
僕たちの町が10個くらいはすっぽりと入るんじゃないかと思う。それにいつもにぎわっていて、こっちにはないものも多い。
いつも観光客であふれている人気の観光地でもあるんだ。
なにか用があって王都に行くというと、みんなからうらやましがられるくらい。
でもライムは、どこか怯えた表情で森の向こうを見ていた。