掃除と洗濯1
エルがいつものように町の様子を見てくるといって出かけたため、家の中は僕とライムだけになっていた。
のんびり休んでも良かったけど、長く家を空けていたせいでやるべきことも多く残っているんだ。
なので、この機会に片付けてしまうことにした。
「まずは洗濯をしようか」
「わたしもお手伝いします!」
「ありがとう。それじゃあ、カーテンを外してきてくれるかな」
「わかりましたー!」
元気よく答えると、窓に向かって全力で走っていった。
狭い家だから窓はすぐ近くだし、そんなに急ぐこともないんだけど、ライムはいつでも元気いっぱいだね。
ライムがカーテンを集めているあいだに、僕もベッドのシーツをまとめることにした。
布団も洗いたいけど、これは普通に洗うことはできないんだよね。
あとでクリーニング屋さんに持っていかないと。
服とかもなるべく洗ってるけど、クエストに出てるあいだはどうしても同じものを着続けるから汚れやすい。
家の中にも、ベッドのシーツやカーテンの他にも洗いたいものはたくさんある。
今日は天気も晴れてるし、まとめて洗うにはちょうどいい日だよね。
「カインさん、持ってきました!」
家中のカーテンを抱えてライムが戻ってきた。
さすがに早いなあ。
ちょうど僕も他の洗濯物をまとめたところだったので、洗濯用の桶と洗剤を持って二人で外に出ることにした。
お金持ちの家だと自動で洗ってくれる洗濯機というのがあるみたいなんだけど、もちろん僕はそんなもの持っていない。
たぶんこの町で持ってる人はいないんじゃないかな。
だからいつも通り桶に水を張って手洗いすることにした。
水水晶を割ると中から水があふれてきて、桶の中が新鮮な水でいっぱいになる。
普通の水なら井戸から汲むんだけど、今回みたいにたくさん必要な場合は大変だからね。
僕がシーツを洗うのを見て、ライムも真似をするようにカーテンを洗いはじめる。
「あははーっ! 冷たくて気持ちいいですー!」
カーテンを桶に放り込んでジャバジャバと勢いよく洗っている。
勢いが良すぎて水がだいぶこぼれちゃってて、自分もずぶ濡れになっていた。
洗い方としては間違ってるけど、本人が楽しそうだしまあいいのかな。
洗い終わったものから軽く絞って洗濯紐に干していく。
シーツやカーテンだけじゃなく、服とかも一緒に洗ったため、共用の庭が洗濯物でいっぱいになってしまった。
真っ白なシーツが太陽の光を浴びてまぶしいくらいに輝いている。
これならすぐに乾きそうだから、少しのあいだくらいならいいよね。
「洗濯はとりあえずこれでいいかな。それじゃあ次は家の中を掃除をしようか」
「今日はお仕事がいっぱいですね」
「大変だったかな?」
僕はいつもしてるから何も思わなかったけど、ライムにとっては初めてだから大変だったかも。
ちょっと休憩したほうがいいかなと思ったけど、ライムは洗いたてのシーツに負けないくらいに笑顔を輝かせた。
「これくらい全然大丈夫です! むしろカインさんのお手伝いがいっぱいできてうれしいくらいです!」
「僕も手伝ってもらって助かるよ」
「えへへー」
洗濯とか掃除は意外と重労働だからね。
二人でやれば大変さも半分になるし、いいことばっかりだよね。
洗濯を終えたあとは、家の中に戻ってまずは全部の窓を開けてまわった。
通り抜ける風が涼やかで気持ちいい。
天気も晴れてるし、今日は絶好の掃除日和だね。
ライムには、はたきを使って高いところの埃を落としてもらい、僕は雑巾でテーブルなどをふいていく。
こうやって掃除をする機会はめったにないからね。
できるときに一気に掃除してしまいたいんだ。
「ふんふんふ~ん♪」
ライムがはたきをかけながら上機嫌に鼻歌を歌っていた。
「楽しそうだね」
「お掃除って、上手くいえないですけど楽しいです。こうやって掃除をすればするほどカインさんとわたしの家がキレイになっていくんだと思うと、とてもやりがいがあるといいますか」
「そうなんだ。僕も同じだよ。掃除って楽しいよね」
掃除なんて面倒だから嫌がる人も多いんだけど、僕はけっこう好きなんだ。
やればやっただけキレイになるし、やっぱりキレイな部屋にいると気分も良くなるからね。
最後の仕上げとして、二人で床をふいていった。
まあ、僕が一往復する間にライムは五往復くらいしてたけど。
戻ってきたライムが雑巾を洗いながら尋ねてくる。
「なんで床が最後なんですか?」
「埃は上から下に落ちていくからね。先に高いところの埃を落として、そこから順に低いところを掃除していけば、最後は床の汚れを拭くことでキレイに掃除できるんだ」
「なるほど、たしかにわたしが隠れ家で床を掃除したときも、天井の埃が落ちてきて結局もう一度掃除したことがありました。最初に天井からやればよかったんですね。さすがカインさんです!」
ライムが感心したようにうなずいている。
どうやら一人でいたときも結構掃除はしていたみたいだ。
「それにしてもライムがキレイ好きなのは、ちょっと意外というか、あまり考えたことなかったな」
掃除嫌いだと思ってたわけじゃないけど、あんまり細かいことを気にしないイメージだったから。
するとライムは笑顔で答えた。
「家の中をピカピカにすると、侵入者が入ると汚れるのですぐに気が付くんですよ」
思ったよりも物騒な理由だった。
だけどライムの顔に陰はない。
晴れやかな笑顔を浮かべていた。
「それにやっぱり、キレイな方が気分もいいですから」
「うん、そうだね」
それは僕も同じだったので、うなずいて同意した。




